ゲルシーの弱点
「へえ、研究員ねえ。それで白衣を着ているわけか」
彼は顎ひげを擦りながら頷いていた。
「それで、嬢ちゃんも同じく研究員なのか?」
「いえ、私はその……」
マミはどのように答えればよいのか分からず困惑していたが、
「彼女は私の助手を」
とシゲルが言った。
「へえ。こんな若いのに研究所勤めとはよっぽど頭がいいんだな」
河津はそう言いながら彼らの顔をしぶしぶと見た。
「それじゃあここに来たのも研究の一環で……」
「まあ、そんな感じですかね」
本当は違うがとりあえず河津のことをもっと知るまでシゲルは黙っておくことにした。
「河津さんこそ何故ここに?」
「俺も似たような感じだ。ただ仲間がいたんだが、ちとはぐれてしまってな」
「仲間ですか?」
「ああ、変な化け物に襲われて……」
『変な化け物』というワードが出できた途端、シゲルとマミの表情が変化したのを河津は見逃さなかった。
「……お前さんらも知ってんだな?」
「はい、黒い皮膚に以上に発達した筋肉」
「間違いねえ」
河津は深く頷いた。彼もゲルシーに遭遇していたのだ。
「アイツに遭遇した時、俺ともう一人島田という男がいたんだが、戦闘のさなかにどこかへ消えてしまった。暗闇だった上に化け物がしぶとかったからな。その後ここを見つけて島田を探してるってわけだ」
「なるほど……。それで、その化け物は?」
「視力は弱い見てえで奴の攻撃は当たらねえんだが、こちらの銃弾が貫通しないもんだからほとんど攻撃は通じねえ。ただ何故か地上への階段に来た瞬間、ばたりと倒れてしまった」
「階段で?」
「そうだ」
おかしい、と真っ先にシゲルは感じた。自分たちもゲルシーと戦った際には会談へ向かい地上戦に移行している。ならば何故河津と遭遇したゲルシーは倒れたのだ?
「河津さん、実は僕らもゲルシーと戦闘したんですよ」
「何、あんたみたいなヒョロヒョロといたいけな少女が?」
ヒョロヒョロは余計だ、と思いながらも話を続ける。
「ええ、彼女のおかげで辛くも勝利することができたのですが、ただ今の話を聞いて一つ疑問が」
「何だ?」
「おそらく今の話から推測するにゲルシーは階段、つまり地上へとつながる場所で倒れたと考えています。おそらく環境の変化が大きいからと思うのですが、その日の地上の天気を教えていただけないでしょうか?」
「あの日の天気か……」
河津がコップをおいて考え始めたのと同時にシゲルはマミにあの日の天気について尋ねた。
「あの日の天気は空全体を隙間なく分厚い雲が覆っていましたが、帰るころには晴れていましたね」
「それで、河津さんは?」
「ああ、あの日は確か気温はそこまで高くなかったんだが一日中晴れていたと思う」
なるほど、だとしたらあくまで憶測の域を出ないが一つの結論が考えられる。
「もしかしたら、ゲルシーは太陽に弱いのかもしれない」
場が静まり返る。河津はシゲルをじっと見つめている。何かまずい発言だっただろうか。
シゲルがその雰囲気に耐えられなさそうになった時、河津が重い口を開いた。
「その、ゲルシーって何だ?」
「ああ、そういや説明がまだでしたね」
ふと胸を撫で下ろす。大したことでなくてよかったと。
「ゲルシーと言うのは僕らが付けた化け物の名称です」
「なるほど、了解。で、ゲルシーが太陽の光に弱いって?」
「ええ、あくまで予測ですが僕らの戦闘と河津さんの戦闘、ほとんど状況は変わらなかったはず。しかし唯一異なっていた点がありました。太陽光の有無なんです」
「それで地上からの太陽光が射したことで俺の時のゲルシーは倒れたってことか」
「はい。おそらく奴はこの地下の環境下でしか活動できないんです。だから僕は今まで奴を発見できなかった」
「なるほどねえ」
もし奴が地上で自由に活動できていたならば、おそらく自分はすぐにでも死んでいただろうとシゲルは考えた。
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