第14話 粘土探しも楽じゃないぜ



 俺、メアリー、ダンゲルの3人は粘土の元になる土を探しにモランから渡された地図を頼りにとある山まで来た。


山の名前はエポタチタ山という。前にフリーカーに遭遇した時と似たような自然溢れる山だ。

小鳥のさえずりや流れる水の音が気持ちいい。

そして冷たくなさすぎない涼しい風。

ピクニックに来るならばあの公園やここに来たいものだ。


「細かすぎて伝わらないモノマネしまーす!学芸会とかで出てくる木!」

「ハハハハハ!似てる!似てる!ていうか似過ぎだろ!ギャハハハハハ!」


このクソ迷惑な男幽霊が居なければな。


コイツらは木と一体化して小学生の学芸発表会とかの劇で出てくる木のモノマネをしていた。

お前らこの国の幽霊だよな?

なんでそんな限定的なモノマネしてんの?


普通の人間からしたら森の中は静かだろう?

さっき言ったみたいに居心地の良いイメージを伝えたと思うが俺の場合は違う。

俺の部屋の中ではホームパーティー並の人数と騒がしさ、外を出れば某コミックマーケットやコス●コの中にいるような人数の多さ。

今の状況を例えるならば休み時間に男子が悪ふざけしている教室並にうるさい。


「盛り上がってるところ悪いんだが俺は静かな空間にいたいんだ。声のボリュームをもう少し下げてくれると助かる」


俺は耐えきれなかったので騒いでいる男幽霊2人組に注意をした。

すると、


「あ?」

「なんだと?俺達に言ってるのか?」


男幽霊の2人組が俺に視線を向ける。

一触即発か、と君は思うだろう。

だが、


「そっか、悪かったな。まさか俺達が見える君がこんなところに来るとは思わなくてね。どうか許してほしい」


今までの不穏な空気は一変、温和な顔になり、ペコリと頭を下げた。


「俺もごめん。俺達声大きかったか?今度からは気をつけるよ」


もう片方の男も謝罪をしてきた。


基本的に幽霊はいい人間しかいない。

元の世界でもいい人間しかいなかった。

人に悪さをする幽霊や悪霊は本当に稀にしか見なかった。

俺は幽霊が見えるだけの人間で詳しい事は分からなかった。


以前話した幽霊退治をするために生まれてきたかのような寺生まれの知人を覚えているだろうか?

俺はその男に聞いたことがある。

なぜ悪人の幽霊はいないのかと。


寺生まれのTさん曰く、悪人の幽霊は魂が汚れているので地上に留まる事はできず、強制的に閻魔大王のところへ送られ、秤にかけられるのがほ・と・ん・ど・だという。

だから俺が見える幽霊は善人ばかりで悪さを行う幽霊はいない。


だが、たまに閻魔大王の審判を逃れ、地上に留まる悪い幽霊もいるらしい。その幽霊は人に取り憑いて衰弱させたりポルターガイストを起こして人々を怖がらせたりする。

そんな悪い奴らの魂を祓い、地獄に送るのが自分の仕事だと彼は語っていた。

今日も彼は元気に悪霊を祓っているのだろうか?

最後に聞いた話では死者の国を現世に解き放とうとしていた影の軍団と戦って勝ったらしいが。


「幽霊って恐ろしい存在だと思ってたけど案外そうでもないのね」


メアリーがペコペコと頭を下げていた男幽霊達を尻目にそんなことを言っていた。

と言ってもメアリーは彼等を視認できていない。

ダンゲルしか見えないようになっている。

なせかは知らんが。


「なんだ、お前幽霊苦手なのか?呪術師なんてものをやっているから全然大丈夫だと思っていたのに」

「ここでか弱い乙女アピールをすれば惚れられるかと思って言ってみただけです。きゃーゆーれいこわーい」


面倒くさい、なんだコイツ。


「良く言えば正直、悪く言えばカスだな」

「えっ?それわたし?わたしに対する評価?」


俺がメアリーにジャッジを下してそんなことを呟きながら山を登っていると、


「助けて……」


か細い声がどこかで聞こえた。


「なんか聞こえるな…」


ダンゲルもうんうんと頷きあたりをキョロキョロと見回す。


「えっ?何も聞こえないけど?」


いつもは変な所で勘が鋭く、えげつない判断をするこの女だけなぜか気付かなかった。


「なぜ彼女だけ聞こえないかは私が説明いたしましょう!」


と、俺が思案しているとしばらく姿を見なかった天使が後光を浴びながら突然現れた。


「なんだ?最近出れなかったから派手に登場して読者の気を引こうとしたのか?」

「違いますよ!コレは天使が良くやる登場の仕方なんです!ほら、なんか神聖さが出てお祈りしたくなるようなその、ね?」


ねって言われても困るんだが……

こっちに判断を委ねないで欲しい。


「ちょうどいいわ。あなた天使…でいいのかしら?なんでわたしだけ見えないの?」


メアリーは突然出てきた天使に特別驚きもせず、なぜ聞こえないのかを聞いた。


「まず貴方は御影様に霊の透視、つまりは霊が見える能力を共有することによってダンゲル様を視認出来ているわけです」


天使がそこまで言うとメアリーは赤べこみたいにうんうんと首を縦に振る。


「ですが、私が御影様の能力を改めて確認してみるとちょっと変な部分が多過ぎたんです」

「えっ、俺の能力地味なくせに変なとこまであるの…?」


なんか聞くの嫌だな……と俺は耳を塞ぎたくなった。


「そもそも貴方達の能力は内に秘めた本来なら生涯を終えても気づかない潜在能力を女神ティアラ様が引き出す事によって能力を発現出来ます」

「その能力は誰でも持ってるのか?」

「例外なく持っている……は・ず・でした。そこでイレギュラーな存在が現れました。それが……」

「俺っていうわけか。けどそれがメアリーの見えない理由とどう関係があるんだ?」


俺がそう聞くと天使は「それは順を追って説明します」と言って天使は自分のスマートフォンを起動させて一つのスクリーンを出現させた。


「これは今御影様の御学友がドラゴンと戦っているライブ映像です」

「えっ今やってるの?そもそもそのスマホそんな機能あったの?えらく未来的だな……」


なんだこれ、こんな事出来るのか。今度試して…いや、今はそれよりもコイツの話を聞くとするか。


『今週のエンジェルズアイ!はスイーツ特集をお送りいたします!見てくださいこの純白のクリー」

「あっやべ」


天使は見せる物を間違えたのか今までの丁寧な口調から一転、粗雑な言葉遣いに一瞬変わった。


「すみません。間違えて私が週一で録画していた番組を流してしまいました」

「いや別に……ねぇ?」


俺は天使がさっき俺にやってきたような口調で応えた。

天使のくせにテレビを見るのか……しかもスイーツ特集の。


『シャイニングスラーーーーッシュッッッッッ!!!』

『グゴアァァァァァァァァ!!!』

「あぁそうこれですこれ」


映像の中で起こっていたのは、ガチガチの重そうな鎧を着たクラスメイト兼友人の伴田仁也だった。

一応覚えていない読者の方に説明すると巨乳の受付嬢に褒めちぎられて調子に乗ってた男その1と言えば分かるだろうか。


『パパパパーンパーンパーンパッパッパーン!』

『よっしゃあ!これでレベル45だぜ!』


ドラゴンを倒した瞬間、仁也の身体から某大人気RPGゲームのレベルアップ音のような音が鳴った。

だが微妙に音が違う。


「流石に丸パクリするとまずいので少し音を変えてます」

「そもそもパクった時点でダメだと思うんだが」


俺は即座に突っ込んだが天使はとぼけた顔をしながらも「まぁまぁ見ててください」と宥められ、仕方なしに映像を見た。


『やっとレベルが上がったし新しいスキルでも覚えるか。んー……このガトリングソードって必殺技もいいな……でもこっちのストライクエンドというのも……』

「伴田様すみません!時間の方押してるんで御影さんに一言!一言!」


天使と思われる羽が画面に映り、仁也に耳打ちしながら伝えていた。


「あっそうかそうか!おい奏!お前なんでまだ街に残ってるんだ!?クラスほとんどは街から出て打倒魔王を目標にレベルを上げてるぞ!お前は知ってるか知らんがモンスターをスキルを使って倒してレベルを上げると新しいスキルを取得できる!だけどこれが大変でな、レベル一つ上げるのに」


後半がただの愚痴になりかけた瞬間、映像は途切れた。

皆真面目に魔王を倒そうとしているんだな。

頼むから俺まで駆り出されないように討伐して欲しい。


「なぜ御影様が魔物を倒しても戦ってもいないのに能力が拡張されているのか。それは貴方が常・に・ス・キ・ル・を・使・用・し・て・い・る・からです」


探偵ドラマでよく見るようなしてやったりな表情で天使は言った。

天使のくせに妙に俗世に浸かってるな。


「そもそもレベルと言ってもそれは例えで、ティアラ様が皆さんに分かりやすいようにゲームのような世界に管理しています。そして貴方以外のクラスメイト達は戦い、スキルを使い続ける事で能力を拡張しているのです」

「へぇ、改めて聞くと結構面白い設定じゃないか。それじゃあ俺はずっと幽霊を見ているから自動的に新しい能力を手に入れてるってわけか」

「ですがおかしいんですよ。貴方の能力を調べた所、不可解な点がーー」

「お前らいい加減にしろやァ!!」


天使が何かを言おうとした時、森から怒鳴り声がした。


「なんだなんだ?」


俺と天使の会話に退屈していたダンゲルが嬉々として声のした方向に目を向けるとそこには、そこには………


「おオおレガたすケてとイッテるのがきこえなイのカああア…!?」


現れたのは人の形を辛うじて保った砂の塊の化け物だった。


「なんだァアイツ…?」


ダンゲルは珍しい物を見るかのように首を傾げる。


「ホラー映画とかに出てきそうなビジュアルね……」


メアリーはキラキラした目で化け物を見つめる。

いや、お前……趣味悪いぞ。


「いえ……どちらかと言えばスパイ●ーマン3の下水道でブラックスーツのスパイダーマンにやられて水と一体化して溶けそうになっているサンドマンに見えますね」

「分かりづらい例えやめろ」


天使はよく分からない例えを挙げた。

いやその伝わりそうで伝わらないどうでもいい例え必要?

そもそも分かる奴と分からん奴に別れるわ。


「おい、そんな事よりどうにかしてくれないか。俺はああいうクリーチャーみたいな奴が苦手なんだ」


俺は指で示しながら言った。


いやもう本当に勘弁して欲しい。

そして何故俺がそこまで苦手なのかというと子供の頃に父が俺のためにゲームを買ってきてくれたが、俺は動●の森が欲しかったのにあろうことか父は間違えてバイ●ハザード4を買ってきてしまった。

唯一の共通点は村しかない。


そんな純真無垢な俺は何も知らずにプレイしてしまったせいで見事気色の悪いモンスターは苦手となり、見ているだけでも鳥肌が立つようになってしまった。


そんなわけでトラウマを植え付けられたという至極どうでもいい事なのだが。


なに?幽霊はどうなのかだと?

アイツ等はただの気のいい女風呂を覗く浮遊物としか思っていない。

むしろ幽霊が怖いと思っている奴の気が知れん。

毎日毎日ぷかぷかぷかぷか……世間話に人間観察。

そんな奴らを怖がるなどどうかしてるだろ。


「カナデ様のお手を煩わせるまでもありませんわ。わたしが動きを封じて差し上げましょう」


俺の前にメアリーが歩みを進めた。

コイツキャラブレ過ぎとは思ったが目の前のアイツをどうにかしてくれるならこの際そんなことは気にしない。


「紅べにの水、天の絹、冥府の鎖で悪を吊す……」


メアリーは天に向けて言葉を紡ぐように呪文を唱えた。

なんだか今までとは違う、魔女のような雰囲気に、俺とダンゲルに天使、そのほかの幽霊も息をごくりと飲んだ。


「骨の歯車で脳髄を掻き乱せ……死光暴凱しこうぼうがいッ!」


メアリーは右手をあの化け物に向けて何かを放った。


「グァッ!?」


見事的中した呪文?魔法?は砂の化け物の動きを止める事に成功した。

化け物は両手で頭を抱え、声にならない声で呻き声を上げる。


「ウゥゥ……アアギィィィィィィ………!」


化け物はまともに言葉すら発せず、その場で苦しむばかりだ。

凄い…効いているぞ!


「メアリー……お前、ちゃんとした呪術師だったんだな」

「今までわたしのことを何とお思いになってたのかしら!?わたしだってやる時はやる女よ!?」


俺がメアリーを柄にもなく褒めていると、化け物は少し、言葉を紡ぎ始めた。


「ま、まかロん……」


化け物は一言呟く。


「えっ?なんだって?」

「マカロンと似た単語ってなんだっけ……」

「はっ?」


化け物は訳の分からない事を言い出した。

えっ、なにコイツこれだけ苦しんだいてマカロンと似たような単語を思い出そうとしてたの?


「おいメアリー、お前の呪文まるで効いてないんだが」

「いいえ?ちゃんと呪文は掛けたわよ?」

「……ちなみにどんな?」


俺は恐る恐るメアリーに聞いた。


「似たような単語を思い出すまでスッキリしなくて集中できなくなる呪い、その名も死光暴凱よ」

「名前だけじゃねぇかお前のそのヘボ呪文!?」


メアリーはまたもやロクでもない呪いを掛けた。

なんでそんなに露骨に限定された呪いなんだ?


「なんかお前の呪文ちょっとだけスタイリッシュなった気がするな……なんかブ●ーチみたいな詠唱みたいだったぞ」

「ギクっ」


俺がただ似ている、と言っただけなのに露骨に汗を吹き出し終いには「ギクっ」と口で言った。


「お前……まさかぱくーー」

「リスペクトです」

「リスペクト……」


メアリーが即答し、ダンゲルがオウム返しで呟く。

パクりとリスペクトは似ているようで違う。

彼女も漫画を読んで詠唱を工夫したのだろう。

初めは真似をして徐々に自分だけの物を作る……うん、まぁ、努力をしていて良いのではないか?


「クソッ!全然出てこねェ!マカロンと似た語幹の単語ってなんかあったか!?」


化け物はまだマカロンと似た単語を思い出そうとしていた。

よく見ると俺達に近づこうとしているがマカロンの事が気になり過ぎて立ち止まったまま虚空を見つめながら「うーんうーん」と唸っていた。


あれ……?思ったよりアイツの呪いって凄いのか?


「…ごめんな、お前の呪いって凄かったんだな」

「えっいきなりどうしたの…?」


俺が謝罪をするとメアリーは目が飛び出そうな勢いで俺を見た。


「畜生……こうなっあのも全部あの女のせいだ………」


化け物は悔しそうに歯軋りしながら、


「これも全部モランのせいだ…!」

「…は?」


まさかの人物の名前をポツリと呟いた。

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