第11話 本当はお金が欲しかっただけなんです

ーーなんて日だ。


いや、別に突然ツルツル頭の芸人の真似をしたくなったとか、そういうわけではない。

本当に今日はついてない日だと、そう言いたかったのだ。

そもそも死神(女神)と出会った時点で俺の幸運値はゼロになったと感じてはいるが。


「まずい、まずいぞ……!あそこには沢山の市民がいるというのに……!」


ダンゲルは焦燥に駆られていた。

この国の王様として不甲斐ない、と悔しながらも浮きながら街へと向かっていた。


「俺は先に行っているぞ!お前らも早く来いよ!」


ダンゲルはそう言うと超スピードで街へと向かっていった。


幽霊は肉体を持たない、魂だけの存在だ。

故に身体的制限に縛られず、人間には出来ないくらいの高速移動もできる。

俺とメアリーは必死こいて走っているのに、ダンゲルは焦りながらも涼しい表情で去っていった。


「くそッ……お前……そういうのずるいぞ……!」


俺は文句を言いながら走る。

するとメアリーが


「それなら!わたしが足が早くなって疲れない呪いを掛けてあげるわ!」


と気の利くことを言った。


「なんだ、ポンコツ呪術師でもいいものを持っているじゃないか」

「その代わり使い終わった後は激しい筋肉痛と吐き気に襲われるけどね」

「ざけんな」


前言撤回、ポンコツではなく超ポンコツだ。


あぁ、辛い。

普段運動をしていないとこんなに大変だとは……これからは朝6時に起きてランニングをしよう。

俺はそう心に決めた。


走り始めて15分以上は経っただろうか。

遂に俺達は街へとたどり着いた。


「いやぁー!助けてぇ!襲われるー!」

「ひぃぃ!なんなのぉあの女は!?」


街は騒ぎが起こっていた。

町の住人が叫び、慌てふためき、逃げるなどの乱痴気騒ぎだ。


「くそ、おっぱいはデケェくせにすげぇ動きだ!」

「あぁ、尻がキュッと引き締まっている割に力強いパンチだ!」


胸と尻の話しかしていない衛兵が膝をついて胸を抑えていた。


「早く見つけないとな」

「えぇ!……向こうよ!街の中心にアイバがいるわ!」


メアリーは前に指を向けながら俺に知らせた。

そこでは驚きの光景があった。

武器を何も持たないアイバが衛兵相手に素手で圧倒していた。


「な、なんだコイツ!?鎖骨がエロい割になんという素早い動き……!」

「確かに、肋骨がいやらしいのにあのしなやかさ……!」

「アイツ等さっきから身体の話しかしてねぇじゃねぇか」


彼等はハアハアと息を荒立てながらアイバ、もとい彼女の身体を乗っ取ったフリーカーに剣を向けた。

その息遣いは疲労によるものなのか興奮によるものなのか分からないからどっちかにしろ。


「これでも喰らえェ!」


俺が衛兵達の言動に疑問を抱いていると、何やら聞き覚えのある男の声があった。


「ハァ!オラァ!」


パンチキックキックパンチを繰り返していた。

キミ達は知っての通りアイツは肉体を剣に封印された魂だけの存在だ。

だからアイバの身体を乗っ取つたフリーカーには攻撃が通じない。

幽霊に対抗できるのは幽霊、それと例外で寺生まれの俺の知人だけだ。


「フハハハハハ!ただの魂だけの存在が我に触れることなどできるわけないだろう!」


フリーカーは愉快そうに笑った。

ダンゲルは悔しそうに歯をギリリと噛み締めた。


「くそ……!俺に身体があれば……俺に奴を倒すだけの力があれば……!」

「…………」


ダンゲルは俯き、地面を叩いた。

幽霊だからそんなことは……いや、そんな卑屈なことを考えるのは、もうやめだ。

助けたい人物を助けることのできない王、悪霊に取り憑かれて苦しみ、助けを必死に求める女、そんな彼等を黙って見るのは、一人の人間として、力を持つ能力者として見過ごすのは…………


「ダンゲル!その女を救いたいか!?」


俺はダンゲルに大声で呼びかける。


「…ッ!当たり前だァ〜ッッ!!」


俺の声に気づいたダンゲルは俺の顔を見る。

その顔は怒りと驚きが混じった複雑な表情だった。

「俺に取・り・憑・け・!」

「ハァ!?」


俺はダンゲルに取り憑くよう言った。

ダンゲルは何を言われたかわからず、訳がわからんといったいった顔だった。


「何言ってんだお前!?俺はあの化け物みたいな悪霊じゃねぇ!俺にはアレは出来ねぇよ!」


そう、普通の良い幽霊は取り憑くことなどできない。

魂を腐らせ、堕落した幽霊、悪霊だけが人に取り憑く事ができる。

だが、俺は霊能力者。

霊関連の事で俺にできない事など無い。


「違う!俺の新しい力を使ってお前を取り憑かせてやるって言ってんだよ!」


俺はダンゲルにそう言った。


あぁまったく、俺は、俺もアイツをバカにできるほど賢くはないらしい。

目の前に困った奴がいたらなんやかんや悩んで結局助けてしまう。

そういうタイプの賢くないバカだ。

だが、俺は自分のために他人を踏みつけにして見て見ぬ振りが出来る賢い奴にはなれない。

だったら俺は、うだうだ言って結局人を助ける救いようのないバカになってやる。


「まさか会って一日も経ってない奴に身体を許す事になるとはな……」

「は?ソイツ誰よ。連れてきなさいわたしがありとあらゆる呪いを付与してやるわ」

「お前ちょっと黙っててくれる?」


まったく、余計な水を差さないでもらいたい。

メアリーは俺に黙れと言われて結構傷ついたのか固まってしまった。

まあ後で元通りになるから放っておこう。


「ほらさっさとしろ!お前のこの国の人間への愛はただ見てるだけでいいしょうもないモンなのか?」


俺は未だ何故か悩んでいるダンゲルに分かりやすい挑発をした。


こっちはまともに使えるかもわからんものに腹を括ったんだ。

むこうも同じことをしてもらわないと困るってものだ。


「あぁ…やるよ。やってやるよォォ!!」


ダンゲルは俺の元へと超スピードで迫った。

俺はそれに身構え、両の手を差し出し受け入れる姿勢を取った。


「「ウオオオオオオオオオ!!!」」


ダンゲルは俺にぶつかるように透けていき、俺の中に入っていった。

その瞬間、俺の身体は金色の輝きを放った。


「なんだ!?」


衛兵を叩きのめしていたフリーカーは俺達の光に驚き、こちらに視線を向けた。

だがもう遅い。

お前がテンプレの悪役ムーブをするからこんな事態になったのだ。


「貴様…一体何者だ?」


フリーカーは俺、いや俺達の姿を見て首を傾げた。

どうやら誰か分からないらしい。

ここは一つ、口上でも上げてやろう。


「俺は、そうだな……カナゲル…いや、カナデル……なんか違う…ダンデ……うん、ダンデだな……俺の名はダンデ、今からお前を倒す者だ!」


俺はフリーカーにそう宣言した。

初めてこの力……『憑依』を使ったので名前をいきなり言うのに少し時間がかかってしまった。

だが本名を知られるよりはマシだろう。


「筋肉モリモリでパンツ姿……気持ち悪いなお前」

「は?何言って……」


俺は自分の身体を見てみた。

俺の腕は太く、分厚く、丸太がペンキで肌色にでも塗られたのかと疑うくらい変貌していた。


突然だが…逆転裁判、というゲームはやったことがあるだろうか?

すごく簡単に言うと新人の弁護士が活躍する超有名なゲームだが、その中に霊を自身の身体に憑依させる事ができる女の子がいる。

その女の子は霊を憑依させると自分の身体もその霊と同じ身体付きになるのだが、今の俺はそのゲームの女の子とほぼ同じような状態だった。


まずはこの腹筋。

シックスパックと言うには優しすぎるくらいに割れていた。なんだこれは。

格闘漫画で出てきてもおかしくない身体だぞ?


しかも何故か俺の服が弾け飛んでしまった。

残ったのはパンツだけ。

そのパンツもパツパツで無理に動けば絶対破れる。


俺はハルクか。


だが制服じゃなくてよかった。

もし着てたら思い出の品が無くなってしまう。


いや、そんなことより今は目の前の敵に集中すべきか……


「これが俗に言う……薔薇!」


割と早く復活したメアリーが俺に対してよだれを垂らしながら物騒な事を言ってきた。


「やめろ!変な言い方するな!」

「カナ×ダン、いやダン×カナ……?」

「やめろっつってんだろうがァ!」


本当にやめて欲しい。

俺だって好きで浴槽にプロテイン入れて悦に浸ってそうな筋肉野郎と合体(憑依)なんかさせないんだが。


(お、おいさすがの俺でもそんなことしねぇよお前俺を何だと思ってんの?)


意外な事に俺の心の中の言葉をダンゲルが聞いていた。

まさかこの力は憑依させた幽霊は俺の心の中の声まで聴きとれるのか?だとしたらめちゃくちゃ嫌な能力だな、解除しようかな……」


「ええいうっとうしい!大人しく消えろ!」


フリーカーが落ちていた衛兵の槍を俺達の元に投げた。

その速度は凄まじく、一瞬ながらもブオンと風を切る音が聞こえた。


「カナデ!危ない!」


メアリーが言い終わる前に槍は俺達に刺さった。

恐るべき勢いで槍は俺達を吹き飛ばす。


「な、なんだと…?なぜだ、なぜ立っていられる!?」


と奴は思っていたのだろう、フリーカーは顔を顰め、なぜだなぜだとうろたえていた。


「おいおいマジかよあの男…とんでもねぇ勢いの槍を『フッ……今何かしたか?』みたいな顔で素手で掴みやがった…!」

「フッ……今何かしたか?」

「し、しまいには言ったぞ!」


正直に言おう、ぶっちゃけこういうのにも憧れていたし刺さったらどうしようと思ってビビってた。


「フン、その程度で勝ち誇ってもらっては困るななななななななな!?」


俺はフリーカーが言い終わる前に奴の前に一瞬で近づき、素手で拘束した。

いや、俺というよりダンゲルが、と言った方が良いか。俺は戦ったことなど微塵も無い。

だから経験豊富なダンゲルに身体の指揮権を預ける事にした。


「き、貴様一体何を……」

「このままだとお前を気持ちよくぶん殴れねぇ。だから一旦お前とこの女を引き剥がす!」


そう言ってダンゲルは何やらパワーを溜めた。

俺の身体からオレンジ色の明るい光が沸き起こり、その光がフリーカーにも伝わってきた。


「グッ…グアアアアアアアアアア!?なんだ!?なんだこの力はァァァァァァ!?」


フリーカーはガタガタと震えて痙攣し、白目を剥き始めた。

最初は顔色が白かったのが段々人間と同じ肌の色に戻ってきた。


「お前らが忌み嫌ってる王族の力だよ」


ダンゲルはそう言ってアイバの身体から出かかっていたフリーカーの本体を右手で掴み、一気に引きずりだした。


「やった!やったわ!これでアイバを傷つけずにあの忌々しいクソッタレのタンカス野郎に目に物見せてやれるわ!」


おーい言葉使い。

メアリー……お前はキャラがブレたりブレなかったり、いや、それがアイツなのか。

考える必要はないか…というか考えたくない。


「何故だ…!?何故貴様がその力を……!?」


引きずり出されたフリーカーはしかめっ面で俺達を見た。

確かに、俺もダンゲルにこんな力があるのは知らなかった。

王様だって言ってたのもプロテインとささみの摂り過ぎで脳味噌までもが筋肉になってしまった可哀想な人間だと思っていたしな。


「だから聞こえてんだって!お前人をおちょくるのも良い加減にしろよ!俺は王だぞ!?……前代の」


最後だけもにょもにょ言って聞こえなかったがまぁ気にする事ではない。

それよりも、俺達が気にするべきはフリーカーの方だろう。


「…貴様、何者だ?この俺を人間から引き剥がすなど、俺の知る限りでは『祓い屋』、『聖十字教会』、そしてサンゼーユの王の力だけのはず……」

「待て待てそれ以上訳の分からん事を言うな。専門用語を一度に沢山言われると困る」

「はぁ?なんだ貴様、そんなに頭が弱いのか?まぁ見た目通り筋肉ばかりに栄養が行ったのだろう。脳味噌はガムボールより小さいのか?記憶力は赤ちゃん以下なのか?」


見た目と頭を馬鹿にされるとは……身体に関しては100%奴だから何も言う事はないが俺の頭まで馬鹿にされるのはちょっとムッと来たな。


というか口悪!

俺以外の人間だったら泣くぞこれ。


「どうした〜?思ったより簡単に計画が頓挫して怒ってるのか?あんな無用心に計画をペラペラ喋るからこうなるんだよ」


ダンゲルが逆にフリーカーを煽り始めた。

確かにまだ悪い事を企んでいる時に達成寸前だからって敵にあれこれ話すのはちょっとアレかな、とは思うがね。


「さっき俺は引かぬ媚びぬ省みぬといったな?」


とフリーカーは眉をピクピクさせながら俺達に聞いた。


「うん」

「それは嘘だ!お前らなんかに殺されてたまるかバーカバーカ!」


急に語彙力が低くなったフリーカーは俺達から逃げるべく反対方向へと向かっていった。

だが、奴は忘れていた。

俺達の仲間にはとてもとても執念深い女が居たということを。


浮遊しながら逃げていたフリーカーは突然止まった。

まるで金縛りにでもなったかのように。


「なっ…身体が……動かん…!?」


フリーカーは必死に身をよじるがまるでパントマイムをやっているかのようにちょっと動くだけで実際にはほとんど動かなかった。


「あらあらどうしたの?なにか急に止まって?何か言い忘れた事でもあったのかしら?」


コツコツと、音を鳴らしながらゆっくりと、だが確実に近づく死神……もといメアリーはやはり死神のようにニコニコと見るだけで漏らしそうな笑顔でフリーカーの元へと近づいていった。


「クソッ!離せ!貴様!この俺を誰だと思っている!?あの魔王の幹部レイギス様の部下だぞ!?殺したらどうなるか分からないほど馬鹿じゃないだろ!?」

「あらぁごめんなさい、わたし今は恋に恋する乙女ですから頭が馬鹿になっちゃってテメェが何言ってるか分からないですわ!」

「ヒィッ!?」


フリーカーはメアリーの微笑みに顔を一瞬で青冷めさせた。

見るからにおっかない札を右手に、そして左手には見たことのない形状のナイフを5本も指に携えていた。


……いや確かにこれは怖いわ。


「本当はわたしが仕留めようと思ったけど、ご主人様に活躍させなきゃいけないから今日はこれでわたしの出番は終わりね……」


メアリーは少し名残惜しそうにしながらも俺に視線を送り、ウィンクをした。

なるほど、さほど俺も頭が良いわけではないが、彼女の意図くらいは分かった。


(存分に振るえダンゲル。ツケを払ってもらおう)


俺が心の中でダンゲルに言うと、ダンゲルはこれ以上ないくらいの笑顔で、


「おう、この国の民を傷つけた罪は重い。覚悟しろ」


右の拳をグッと握りしめた。

拳には空から力が与えられるかのように拳に燃えるような赤やオレンジ、まぶくて目を細めてしまうくらいの黄色い輝きがダンゲルの拳へと還元されていく。


「俺はサンゼーユ国24代前王、ダンゲル・シャイン・サンゼーユだ!俺の名を覚えて逝きなァッ!!」


そう言ってダンゲルは、燃え上がる灼熱の拳をフリーカー目掛けぶん殴った。


「グアアアアアアアアアアアッ!!!」


紅く黄金のように輝く拳はフリーカーに当たった瞬間、フリーカーの胴体に奥の奥まで、限界までめりこみ、内側から灼き尽くすように火が燃え広がった。


「な、なんだ…!?俺の身体が……灰になって……!?」


フリーカーは自身の胴体に焼き付いたダンゲルの拳の跡を手で触れようとした瞬間、その手は黒く染まりやがて粉のようにボロボロと落ちていった。


「クソッ……!俺の、俺とレイギス様の野望が……俺・の・夢・が……こんなところで終わりかよ………」


フリーカーは悔しそうに、諦めるかのように力なくぼそぼそと呟くように言った。


…そういえばどうでもいいことだが口調が『我』から『俺』に変わったな。

キャラ作りだったのか?


「夢…?人をこんなに苦しめておいて夢だと?図々しいにも程があるぞ」


ダンゲルは朽ちてゆくフリーカーに怒りを含めながら言った。

だがフリーカーはそれを鼻で笑う。


「俺には、俺とレイギス様には人を何人、何十人何百人苦しめてもやりたい大きい夢があるんだよ。お前らには分からないだろうがな……そうだ…お前、名前はなんだ?」

「ハァ?聞いてなかったのか?ダンゲルだよ」


ダンゲルが自分の名前を言うとフリーカーは「違う」と言った。


「その身・体・の・持・ち・主・だよ。お前、名前は?」


フリーカーは俺とダンゲルが身体を共有していることに気づいたのか、フリーカーはダンゲルではなく俺に話しかけるかのように俺の瞳を見据えた。


「あぁ、そんなことが。コイツの名前はーー」

「マイケルです。マイケル」

「えっ」


ダンゲルは間抜けな顔をしながら幽体になったじょうたいで俺を見た。

俺はダンゲルがふざけた事を言う前に彼をを俺の身体から追い出した。


「おい!なにやってんだよ!?コイツは人を傷つけたがもう死ぬんだ、名前くらい教えてやっても良いだろ?」


ダンゲルは俺にツンツンと俺に触りながら言ってきた。

ふざけるな、敵に自分の名前を言う奴があるか。

誰が何処で聞いているか分からないのに名前なんか出せるか。

せめて偽名でも使わないといけないだろう。


「……なんか偽名っぽいな」


俺はビクッとしたがもう意識が薄れかけているのか何も言わなかった。

というかあんなの喰らったのにまだ喋れるのか。

はよ地獄に行ってくれ。


「ふっマイケルか……めちゃくちゃ偽名っぽいがその名、我が主、アイギス様に伝えておくぞ……」


そう言ってフリーカーはようやく、天へと登っていった。

奴は確かに、アイバの身体を乗っ取って彼女を苦しめて精神を著しく衰弱させた。

それだけでなく街の中で乱闘し、市民と衛兵に怪我を負わせた。

だがそれでも、俺は一つだけ奴のために祈った。


ティアラとかいうヤブ女神には、絶対に遭遇しないように…と。


「オイオイ……マジかよ…あれほど衛兵がてこずった相手を一瞬で倒しやがった……!」


通りには、もう戦いが終わった事を確認するために市民が建物の中から出てきていた。


「すげぇ…」

「カッコいい……」

「よくやったぞ!」


称賛の声が嵐のように街の中で沸き起こる。

なるほど、なかなかどうして悪くない。

俺は今まで感じたことのない満足感を覚えていた。


「すごいわ!さすがカナデね……なんでも出来ちゃう!よっ!ヒーロー!勇者!今夜はあそこの宿でたっぷり英雄譚を聞かせて頂戴!」


メアリーがいつの間にか用意していた籠の中に入っていた桜吹雪を手でパッとばらまきながら褒めちぎっていた。

なんだろう、とても充実感のある、気持ちのいい感情だった。


だが、ある一人の少女が俺を、俺の顔の少し下を指で示しながらこう言った。


「あのお兄ちゃんなんで裸なの?」


何気なく、悪意なく言ったのだろう、少女はいたいけな表情で俺のアレを笑顔で見ながら笑っていた。


「確かになんで裸なんだろうな…」

「いや普通モンスター倒す時に裸になるか?」

「全裸でチ●ポ振り回しながらモンスター倒して興奮してんの…?キモ……」


黄色い声援は、一瞬でドス黒い悪口へと変わり、明るい声は暗いヒソヒソ声へと変わっていった。


いつの間にか、俺のパンツは破けて、俺の全てが丸見えだった。

俺はそれに気づかず間抜けにも棒立ちしていた。


「お、おいカナデ、こっちを見ろ。安心しろ、人の噂もうんたらかんたらって言うだろ?気にするこたぁねぇって!」


あぁ、俺は忘れていた。


「か、カナデ……?大丈夫よ?私は貴方の事軽蔑なんてしたりしないし、それに貴方の貴方……とても可愛い形してるし……」


こんなクソみたいな能力を持った瞬間から、俺はこうなる運命だったのだろうか。


「神よ…………」


嗚呼、もしも、もしもこの世に神がいるのなら、次は普通の、ごく普通のありふれたただの人間にしてくれますように………


俺はそんな薄い望みをただひたすらに、生まれたままの姿で一筋の涙を流しながら俺は祈った。

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