1-22 視察
◇◆◇◆◇◆◇
案外、スムーズに視察と崎村監督との面会のアポイントを取ることができた。崎村監督も、実は北郷学園高校の体育教師なのだそうで、幸いすぐに当人に代わってもらえた。
恥ずかしながら繁村は知らなかったのだが、女子高校野球にはアウトオブシーズンがないのだそうだ。男子に比べて歴史が浅く、規定がそこまで整備されていないというのもあるが、ただでさえ女子高校野球部は、競技人口も部を持っている高校も少なく、その必要性が問題視されていないのではないか、という崎村の話であった。地元のシニアやボーイズリーグの少年野球チームと試合を組んだり、またあくまで『対外試合禁止』なので、同じ高校内での試合をしたりしている。実際には男子硬式野球部の二軍チームと試合を組んでいるのだそうだ。
「今日はありがとうございます。突然押しかけてしまってすみません……」
繁村は
「ああ、繁村先生、電話を取った事務の女の子が、『硬式野球部の監督と名乗る男性から、怪しげなオロオロした口調で、崎村先生に会いたい、って言ってますけどどうします』なんて、言うもんだから、もうどうしようかと思っちゃいましたよ」
会って早々、いきなり崎村はこんなことを言うもんだから、繁村は思い切り面食らってしまった。しかし、崎村はニコニコしている。
繁村は根っからの電話無精だ。
「いえ、すみません。愛琉のことがあったもので躊躇したんです。断られるかなと思ったものですから」
「断るだなんて、まぁ、
「やはり、めぐ、あ、いや嶋廻は、私も逸材だと思います」
「いつも、『
「そう、おっしゃって頂いて気が楽になりました」
「そんな、よそよそしい敬語は私には不要よ、先生!」
そう言って、崎村は繁村の肩を軽く叩いた。
初対面のときこそ、丁寧な口調だったが、2回目の対面では非常にフレンドリーな応対である。もともとこういう性格なのだろう。
宮崎県出身という崎村は、明るく
しかし、愛琉と言い、崎村と言い、初対面で知り合い、2回目からはお友達、と言わんばかりに社交的なところは、野球女子の特性なのだろうか。
「ところで、崎村監督は、現役時代、ポジションはどちらだったんですか?」
「私は主にピッチャーで、内野手も兼ねてたかな。当時はあまり部員がいなくて、複数のポジションを任されたものね。高校時代は結構私もいいところとまで行ってね、これでもアメリカのプロ野球リーグのとあるチームから、合宿に来てみないかってお誘いもあって、実際に行ったみたんだけど、肩の調子が悪くなっちゃって、結局断念したのよ。それで、プロ野球で活躍するという夢は、指導者となって後輩たちに託されたけど、愛琉ちゃんは私とポジションも一緒だし、どこか特別に感じちゃうのよね」
「そうなんですね」
「だから、本当に歓迎してるの。先生がこうやって来てくれたこと。愛琉ちゃんは本当に先生のことが好きみたいで、うちのチームに来てはもらえなかったけど、私はあの娘をいつでも応援してるんだから」
愛琉が、繁村のことを好きと崎村にも言っていたこと、少し照れ臭く思った。いっそう彼女の指導について勉強しなければと感じる。
それから、しばらく女子野球の指導について、特に男子との違いを重点的に教えてもらった。恥ずかしながら、女子野球の特性に詳しくなかった繁村にとって、その奥深さを強く感じさせられた。まさに目から
実は崎村は、
また、実際に女子プロ野球界で活躍している友人もいるらしく、実際にそこを訪ねては、指導方法について教えを乞うているらしい。
どうりで、彼女の教え方には妙な説得力があるな、と思った。漫然と男子同様に指導してきたことを改めて恥じるとともに、崎村に会いに来て本当に良かったと思った。
また、対外試合禁止期間が終わったら、是非練習試合を組ませて欲しいと依頼もされた。どういうわけか、すっかり崎村は繁村に心を許してしまったのか、携帯電話の番号も交換することになった。
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そして、アウトオブシーズンでの練習。
ピッチャーである畝原、そして愛琉も走り込みを行い、畝原に至ってはかなり球速が上がったかのように見える。キャッチャーミットに吸い込まれるときの響きも、より力強さを増した。野手たちもフィジカルが鍛えられ、例えば、素振り一つ取っても飛距離がぐんと伸びそうに感じた。
愛琉も、崎村のレクチャーを参考にして、一部、男子とはメニューを変えてみた。また、もともと持ち前の知識を駆使して、繁村は物理学的な理論のもと指導に指導を重ねた。それが奏功したのか、さらに動きが良くなったような気がしている。
◇◆◇◆◇◆◇
そしてついに、3月を迎える。
2月に九州地区高校野球県予選の抽選会も終えており、また新たな戦いが幕開けされようとしていた。
「いいか、もう新しい一年が始まっている。早く試合勘を取り戻して欲しい。初戦から気を緩めずにやれ!」
繁村は選手たちにいま一度活を入れた。
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