Hole

第4話

 ここからは正直、宇界視点で話を進めていきたいと思う。


は外気圏へ突入して間もなくのことだった。僕等の乗っている船が大きく揺れたかと思うと、先程まで真っ黒な宇宙が見えていたはずの窓から地球が見えた。恐らくは何らかの......少隕石か何かにぶつかったのだろう。


 皆パニック状態で、これでは何かあった時の対処が遅れてしまう。


 僕は勲を見る。僕の意図が分かったか否か、あいつは頷く。



「みんな!おちつこう!」



 皆動きを止める。僕の声では届かなかったかも知れないが、流石は応援団長、相変わらず声が馬鹿デカい。

 

 僕はシートベルトを外し、問題がないか確認しに行く。エンジンなどは全て無事、燃料も漏れてはいない。そこでホッとし、胸をなでおろす。


 もし、万が一だが漏れていたりでもしたら初日で詰んだことになっていたかも知れない。良かった、無事―――――



「!!気圧が.......下がっている?」

 


 どんどん数値が下がってゆく。それもかなり急速で。さっきの衝突でどこかに穴が空いたのだろう。その穴をいち早く見つけなければ!

 

 これは、皆に協力を頼んだほうが良いのだろうか?いや、パニックになりかねない。先程のことですぐパニクるのは分かった。

 

 ならば、千寿達にだけ頼むか?その方が自分一人で探すよりは効率的だろう。本当なら乗員全員に協力してもらったほうが合理的だろうが、生憎僕は合理主義者ではない。自分の勘はほぼ第一に信じるし、理に適った行動なんてのは柄じゃない。



「千寿、勲、黄昏!」



 一先ず3人のいる所へ戻る。そして、声を潜めて状況を伝える。



「何!?大変じゃないか!よし!なら俺がその穴を―――」

『し〜〜〜〜〜っ!』


「す、すまん。」



 声がデカすぎるのも問題だな。声を小さくするマスクでも作ってやろうか。


 そうして僕等はそれぞれ四手に分かれて船内の壁に空いたであろう穴を探す。見つけるのに時間がかかりすぎると酸欠で倒れる人も出てくるだろう。なんせ、乗員は大人に比べると俄然、体の弱い子供ばかりだからな。


 これは時間という悪魔との対決だ。酸素が逃げるのが先か、僕等が穴を見つけるのが先か。

 

 暫く壁沿いを歩く。今の所それらしきものは見つからない。船内をウロウロと歩き回っているからか、何故か視線をあつめている。



「何してんの?」



 声がかかる。まぁ、当然だろうな。傍から見たら不審者だ。



「少し落とし物をした。だから探している。以上。」



 ここはシンプルに、必要以上の情報は伝えない。落とし物というのは嘘だが、何かを探しているというのは本当だ。例えこの少年―――16くらいだろうか―――が嘘偽りを見抜く事ができるような人間であってもばれない自信がある。

 

 この少年ならパニックにならないだろうが、念には念を。



「........手伝おうか?」



 サングラスと帽子をしていたから分からなかったが........この少年、よく見たら大人気UTuber様じゃないか。


 世界全体が余裕がないので殆ど新しいエンタメ・アニメ、漫画、ゲーム等はもう殆ど無いと言う状態だが、昔に作られた物は残っているので僕等子供はそれらを見て楽しんでいる。Utubeは未だに健在だ。最強だな、Utube。


 外が暑すぎて公園なんて行けやしないからな。



「.....手伝ってくれるってんならお有りがてぇけど、誰にも言わないと約束できるか?」



 まぁ、秘密は守れる方だろう。でなければ既にUtuberだって周りにバレて一騒ぎ起きているだろうからな。



「?あ、あぁ。」


「落とし物ってのは真っ赤なウソだ。さっきの揺れ、恐らくは少隕石か何かの衝突が原因だ。それで気圧がどんどん下がっている。」



 声を潜めて状況を説明する。



「それって......ヤバいんじゃ...?」


「あぁ、激ヤバだ。その空気漏れの穴が見つからなければ最悪全員死ぬ。」


「!!」



 少年はサァーっと青ざめる。その『最悪の事態』というのはバカ二人組には言っていない。あいつらはなにかの拍子に騒いでばらしかねないからな。



「全力で、協力させてもらうよ!」



 どうやら気合が入ったようだ。その少年はそう言うとすぐ、穴を探しに行ってしまった。急いでくれるのはありがたい。ありがたいのだが......名前本名すら聞いていないのだが。

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