第56話 プロレス
ある日曜日。
暇すぎだ。暇すぎてつらい。何もすることがなく、部屋でじっとしていると頭がおかしくなる。ただでさえ由香に頭がおかしいと言われる僕だ。おかしい頭に磨きをかけるのもいいかもしれない。
よし。僕は思い付きでスマホをだした。
まず、電話帳を開く。
目を瞑って適当に指でタップ。
画面を見ずにスマホを耳に当てる。
「ハロー、真尋くん。なになにー?」
電話に出たのは遥だった。
「いや用はないです。声が聞きたかっただけ」
「私の声が聞きたかったの?明日まで我慢できなかったの?」
適当にかけただけですとは言えない。
「我慢できない。暴発しそう」
「えええ、大変じゃないかい。よし!今行くよ!」
電話が切れた。
まさか本当に来ないだろうな?
30分後
家のインターホンが鳴る。
部屋の窓から玄関を覗き見る。
いた。遥が大きく手を振っている。
マジできたんだ。
「いやー、外は暑いよ」
僕は飲み物を出しながら遥に聞く。
「突然来たからびっくりした」
「なんでー、真尋くんから電話してきたんだよ」
確かにそうだな。
でも会いたいとか言ってないし。
「あ、こないだ由香ちゃんからお土産のストラップ渡された。ありがとう」
スマホにつけてるストラップを僕に見せる。
僕もスマホにつけてる同じストラップを見せた。
「お揃いだね」
「みんなも一緒だけどな。ほら、これは婆ちゃんとこ行ったときに買った駄菓子屋のヨーグルトだ。たんとお食べ」
ヨーグルトと木べらを遥に沢山持たせる。
僕と遥はヨーグルトを食べた。2人で30個は食べたぞ。
「家族旅行って伊豆でしょ。私も行きたかったなー」
いや、家族旅行だから。遥は家族じゃないから。
「またグループで旅行行けばいいじゃん」
「え、私と2人で行きたいの?」
そんなこと言ってないし。
グループって言ってるし。
”このこの~”と言いながらベッドに座る僕に覆いかぶさってきた。
「プロレス!」
遥がベッドで僕を抑え込もうとしている。
おうおう、やられてなるものか。
体の位置を素早く入れ替えて遥の上をとる。
両足の間に体を入れ、両手で顔を固定。
そして動けない遥に口割舌入吸引キスをする。
最初は抵抗していた遥だが、徐々に体の力が抜けていく。
「んぅ……んんっ……っん」
あれ、遥の抵抗がない。ゼロだ。
むしろ僕が吸われてる?
背中に手が回り体をロックされる。
足が腰に絡まりがっちりとホールド。
くそっ、罠か!
僕たちの戦いは、ベッドから口内に移った。
吸うか吸われるかの戦い。
僕は負けるわけにはいかないんだ。
遥の髪を撫でながらさらに口内奥に侵入する。
勝てる!
カチャ。
僕の部屋の扉が開いた。
「2人は何をしているのかな?」
無表情で仁王立ちの由香。
正座の僕と遥。
「いや、僕はプロレス好きなんで」
「真尋くんと新技を考案してましたっ!」
実にわかり易い嘘である。
「まーくんはプロレスなんか興味ないよね」
「急にプロレス好きになりました」
「それは女の子を襲うためなの」
「違います!。スキンシップをとっていただけです!」
はぁ、ため息をつく由香。
「いやらしい事は私が見えないところでやって」
「いやらしいことじゃありません。スキンシップです」
スキンシップで通そう。
おっぱい揉んだわけじゃないし。
遥は「用事があるの忘れてた。帰るよ。バイビー!」と去って行った。
あいつ逃げやがった!
気まずいです。
ある日の学校。
夏休みが終わって学校が始まると知らない人が増える。
知らない人って言うか、見た目が別人になっているのだ。
僕の予想。
”ひと夏の経験”
大切なものを失ってしまった人もいるだろう。
僕は死守した。してしまった。
淳一と忠が教室に入ってきた。
「2人は夏休み前と後で変わった人?」
「「残念だけど変わらない人」」
2人とも変わらないけど元気だったって。よかった。
雄介と海にナンパしに行ったらしい。
成功はしなかったみたいだけど。
でも、淳一は隣のクラスの女の子にアプローチして付き合いだしたみたい。
雄介は先を越されたとショックを受けてると。
そんなこと言われてもしょうがないよね。
淳一は大人になったのだろうか?
あ、雄介きた。
「真尋は夏休みに大人になったのか?」
「うん、そこそこね」
「そこそこってなんだよ。大人の階段上ったのか?俺は全然ダメだったよ。淳一は女つくるし。羨ましいぜ」
「ナンパしに行ったの?」
「連日、ナンパモードだ。でもお友達しかできない」
頑張れ雄介。いいことあるさ。
雄介・忠はナンパに、淳一は彼女とラブラブな夏休みだったのか。
僕はどうなんだろう。
色々あったけど彼女はいない。
キスやおっぱいはあったけど童貞。
ダメなのか?いや、おっぱいがあったからいいのか?
昼休みトイレに行った帰りに気がついた事がある。
廊下ですれ違う人たちが「あれが……」「女を……」という声が聞こえてくる。なんか新しい噂が流れてるのかなぁ。
教室に戻ると、松木さんと安藤さんがやってきた。
「なんか真尋くんの伝説話聞いたんだけど」
「なにそれ。真尋伝説ってなんかかっこいい」
「お祭りで女の子並べて全員にキスしてたって。しかもそのメンツが宮原さん・小林さん・稲川さん・大津さんだって。本当?」
うーん、誰か見てたのかな?
でも僕は悪くない。
だってあいつらがキスしろと言ったから。
「本当。キスしてって言われたからした」
「由香ちゃんたち3人はわかるけど、明子まで虜にするとは。真尋くん……恐ろしい子」
それでも僕は悪くない。
笑いながら松木さんと安藤さんに、
「2人とも機会があったらキスしようか」
「そうだね、機会があったらキスしようね」
あの2人ともキスしたいなぁ、と考える僕である。
自宅に戻り、由香に今日の話をした。
「誰か見てたんだね。私は別にいいけど」
いいんだ!?
「だって悪い事してないよ」
「犯罪じゃないけど僕は”人でなし”とか”鬼畜”とか”女の敵”とか”インキュバス”とか言われてるよ」
由香はそんなの気にしなくていいと言うけどね。
僕が気になるんだよ。
悪人みたいに言われてるから。
おっぱい好きなのは悪くないよね。
男はみんな好きなはず。
ボインボインておっぱいを手のひらで遊びたいはず。
それにキスだって僕は無理やりしてないし。
むしろリクエストされてキスしたんだからね。
まぁ、僕も気持ちいいから大好きだけど。
まぁ、今更言ってもしょうがないか。
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