第5話 夢から醒めて

 訓練初日の夜、慣れないことをしたこともあり、七人は部屋に戻るとすぐに夢へと旅立っていった。

 その日の夜、智貴は夢を見ていた。

 辺りには何も無く、見渡す限りの一面が真っ黒で、それなのに自分の身体はしっかりと認識出来るという、不思議な状況であった。

 そのまま、しばらくあちこちを見渡していると、突然目の前に気配を感じ、そちらを向くと、そこにはナニカがいた。

 真っ黒の周囲の中、白い靄のようなものが、ヒトの形を模して存在していた。


 は、ただそこに存在するだけで、特に何かをしてくることはなかった

 が、智貴は、それに視られているということを、強烈に感じ取っていた。

 何故、と聞かれても、そう感じるから、としか言いようのない感覚ではあったが、確実に、視られていた。

 それも、ただこちらを見ている、という感覚でなく、自分の全てを見透かされたような、何も隠し通せないと感じるような、観察をされていた。

 ただ、何故か不快ではなく、声も出ない、それの視線以外には何も感じないという状況ではあったが、不思議と落ち着いた気分で、智貴はそこにいた。



 それから、どれだけ経ったか分からないが、ほんの少し、目の前のそれから意識が離れた時、智貴の目の前にはそれは居なくなっていた。

 そして、急に浮遊感を感じ、そのまま意識が遠のいていった。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝、智貴は目を覚ました後も、夢の内容を鮮明に覚えており、そのことを皆と朝食をとっている時に話すと、不思議なことに全員が似たような夢を見たとのことで、いろいろと聞いてみると、真っ黒なところにいたのは同じだったが、目の前に現れた、靄のようなものについては、それぞれ色が違ったらしいことが分かった。

 それぞれの前に現れた靄の色については、竜太は黒、梓はピンク、健司は金、結衣は赤、美咲は紫、健司は灰色と、それぞれ色が違っていた。

 七人は夢について、いろいろと話していたが、分かっていることも少なく、また夢だったこともあり、似たような夢を見たのは偶然だろう、と結論付けて、その日の訓練をすることにした。



「おう、来たな! 今日は、基礎のトレーニングと、その後に自分に合った武器を見つけるぞ! 一応、大体の武器は用意してあるから、好きに使って、自分の相棒を探すといい!」


 訓練場につくと、さっそくハロルドが大きな声で、そう言ってきた。

 ハロルドのそばには、大量の武器が無造作に置いてあり、ざっと見るだけでも様々な種類の武器が置いてあった。


「こんなにたくさん武器があるんだな……見たことも無いような武器まであるんだけど……」


「あ! あれって手裏剣!? 手裏剣まであるの!?」


「剣だけで見ても、凄い量というか、種類があるよな……見てるだけで日が暮れそうだな……」


 そう話しながら、武器を眺めていると、ハロルドが、


「武器は後で見れるから、まずは体力作りだ、走るぞ、ついて来い!」


 言うが早いか、ハロルドが走り出してしまったので、慌ててハロルドについて走っていった。



「はっ、はぁっ……はぁ、はぁ……ハロルドさん、速すぎ……しかもあれだけ走って何であんなに元気そうにしてるの……」


 ハロルドについて走り終わり、息も絶え絶えにそう聞くと、ハロルドはさも当然、といったように、


「そりゃあ、騎士団の、しかもトップがこの程度でへばってたら、ダメだろう? 俺たち騎士は、戦いのときには、国を守らなきゃいけないんだ、疲れたからってへばってちゃ、なんの役にも立たないだろう? そうはならないように、訓練しているからな、昨日今日訓練を始めたばかりのお前らとは、鍛え方が違うってもんよ」


 そう言うと、ハロルドは話は終わりと思ったのか、武器が積まれている場所へと向かい、武器別に並べ始めた。


「さあ、次は自分に合った武器を探すぞ、いきなり当たりを引けるだなんて思って無いから、好きなだけ手に取り、使ってみろ!」


 ということで、各々疲れた身体に鞭を打って、武器の置かれているところへと近づき、いろいろと物色していった。

 様々な武器を手に取り、少し振り回したりしながら、武器を見ていると、吸い込まれるようにある武器を手に取っていた。

 すると、後ろからハロルドが、


「弓か……いいと思うが、使いこなせれば強いだろうが、正直、今のお前の筋力だと難しいと思うぞ?」


「そんなに引くのに力がいるんですか?」


 ハロルドにそう聞くと、


「いや、物にもよるから、引けないことは無いんだが、やはり威力的な面で、あまり弱いものだと、刺さるどころか、かすり傷もつかないからな……まあ、それを使いたいのなら、これからの訓練でより筋力を鍛えないとだな」


 そう言われ、少し悩んだが、これがいいと感じたので、そのまま弓を使うことにした。

 そのままついでとばかりに他の武器も見ていると、全員何かしらの武器を見つけたようで、ハロルドのところに集まった。ハロルドも気付いたようで、満足そうに頷くと、


「よし、とりあえず全員武器は決めたようだな? ああ、あと一応だがサブの武器も考えておけよ? メインが壊れたり、使えなくなった時に魔法だけ、なんて危険だからな、まあ、それはこれから少しずつ考えてくれればいい、とりあえずは今持ってる武器の使い方を教えていくから、これからしばらくはそれの扱いに慣れるようにしてくれ、サブはその後でも大丈夫だろ」


 そう言って、一人ずつ武器の扱いを教えていき、各自その取扱いの練習にか言ったようだった。

 智貴は教えてもらえる順番が最後だったので、他の面々の武器についてみていたのだが、それぞれやはり個性が出るようで、竜太は自身の身体ほどある大剣を、梓はくノ一かとでも言いたくなるような、手裏剣に苦無等、様々なものを、健司は刀を、拓也は2メートルは優に超えるだろう両手槍を、結衣はハンマーを、美咲はとてつもなく長い鞭を手に持っていた。……なぜか恍惚とした顔をしながら鞭を持っている美咲を見て、背筋に冷たいものを感じる智貴だった。



「武器の選択は終わったかしら? 今日の私の訓練に移りたいのだけれど」


 そう言って、リリーがハロルドに話しかけてきたのに気づき、ずいぶんと時間が過ぎていることに智貴たちは気が付いた。

 それはハロルドも同じだったようで、少し焦ったように、


「お、おお、すまんな、それじゃあ、今日はこれで終わりだ、後はリリーに任せた!」


 と言って、訓練場を後にしたのだった。


「あいつ、逃げやがったわね……後で捕まえてやる」


 リリーが恐ろしい顔でそう言うのを見て怖くなったのか、健司が空気を変えようと、リリーに話しかけた。


「リリーさん、今日は何をするんですか? 昨日見せてもらった魔法ですか? それとも、魔力操作の訓練ですか?」


「ああ、そうね……そっちの訓練もしたいところだけれど、今日は訓練はしないわ、座学の時間よ」


「座学……ですか? 何についてのですか?」


「簡単に言うと、魔法と、あなたたちの力についてよ、まだどんな能力があるのかはわからないけれど、少しでも事前に知っておいたほうがいいでしょう?」


 そういうと、訓練場の壁に近づき、壁に色々と書きながら、話し始めた。


「まず、魔法についてだけれど、昨日話した八つの属性については覚えているわね? 属性のそれぞれに対しての関係を話すわよ、基本的に、得意な属性、苦手な属性があるのだけれど、そこから、属性の相性があると考えられてるの、火と水、風と地、光と闇、氷と雷はそれぞれ同時に使おうとすると、互いに弱めあってしまうの、逆に、水と氷、火と雷といったような属性は、互いに強め合って、普段では考えられないような威力を出すことがあるわ、ただ、この関係については完璧に分かってるわけではなくて、そういう傾向がある、といった程度ね。ただ、ここが魔法の面白いところで、どんな組み合わせが一番威力を発揮できるか、魔導士の間では、常に議論、研究されているわ」


「ちょっと止めて下さい! 説明が速すぎて、頭が追い付いてないので、少し時間をください!」


 そこまで聞いた時点で、智貴たちは頭が混乱してきたので、一度、まとめるために休憩を貰うことにしたのだった。

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