第4話 魔法訓練

 全員がハロルドとの模擬戦を終えたときには、ハロルドとリリー以外に立っているものはいない状況となっていた。


「はっはっは! 情けないなあ! 誰一人として俺に一撃も入れられないとはなあ!」


 楽しそうにハロルドが笑いながら、そう言っているのを、誰一人として言い返せなかった。

 竜太がまるで子供のようにあしらわれているのを見た時から、敵うわけもないと分かってはいたが、誰もハロルドに一撃入れるどころか、防御させることすら出来なかったのだから、言い返せるわけもなかった。


「少しは手加減すればいいのに……まあ、いいわ、次は魔法の訓練するわよ」


 未だに笑っているハロルドに呆れながら、リリーが声をかけてきて、早速訓練を始めようとしてきた。


「ちょ、ちょっと待ってもらえませんか……今、そんなに動けるほど体力が残ってないんです……」


「そんなの見れば分かるわよ、心配しなくても、今はそんなに大変なことはしないし、疲れてる今やったほうが効率がいいからするだけ。とりあえず、一人ずつ、この石を握って頂戴」


 美咲が息も絶え絶えに抗議すると、リリーは呆れながら、小さな、5センチ程度の石を渡してきた。

 小さな石が全員に行き渡り、眺めていると、リリーが石について、説明を始めた。


「これは魔法石と言って、持っている相手の魔力を放出してくれるものよ、魔力が出るって言っても、大した量は出ないから、特に身体に影響があるわけじゃないから、気にしなくてもいいけど、あんまり長時間持っていると、さすがに魔力切れになるから、さっさと説明するわ。この石は、魔力を放出するといったけど、個人個人にそれぞれの魔力の波長があって、魔法石を通して放出された魔力には、近くで使われている魔法に共鳴するのよ、その性質を使って、今から全員の魔法の適性を調べていくから、少しじっとしていなさい」


 リリーが説明をすると、いきなり、周りにいろんな球が現れ始めた。


「今、あんたたちの周りに出てる球は、それぞれ、火、水、風、雷、氷、光、闇、地の基礎魔法よ、きっと、それぞれかすかに引かれるものがあると思うけれど、どうかしら?」


 リリーにそう言われてみると、確かに智貴も感じるものがあった。

 そちらのほうに意識を向けてみると、雷で出来た球があった。

 ほかの皆も、それぞれ一番引かれるものがあったのか、それぞれ別の方向を見ていた。


「うん、全員とりあえず引かれるものを確認したわね? それが、あなたたちの一番得意だろう属性の魔法よ、他の魔法は、得意じゃないってだけで、使えないわけじゃないし、訓練次第ね。」


 そう言って、リリーは指を振ると、そこにあった球は全て消えていた。


「それじゃあ、自分の魔法の適性が分かったところで、とりあえず、魔力の操作について訓練していくわよ、とりあえず、最初は魔力の操作といっても分からないと思うから、私が補助するから、それを覚えなさい」


 そう言って、リリーはすぐ近くにいた美咲の腕を掴むと、目を瞑って何かをし始めたかと思うと、美咲が顔を顰め始めた。


「ちょ! ちょっと、何してるんですか!? 美咲先輩大丈夫ですか!?」


「うるさいわね、ちょっと黙ってなさい、この子の体内の魔力を外から動かしてるだけだから、害は無いわよ、集中しないと危ないんだから、黙って見てなさい!」


 そう言って、リリーはまた集中し始めた。

 そのまま、2、3分経ったところで、美咲の腕を離すと、美咲は脱力して、地面に座り込んでしまった。


「美咲先輩! 大丈夫ですか!?」


 そう言って、智貴が近付くと、美咲は手を振りながら、


「大丈夫、ちょっと慣れない感覚だったから、力抜けちゃったみたい、ちょっと休めば、動けると思うよ」


「ちょっと、害はないって言ったのに、信じられないって言うの? ……まあ、いいわ、次はあんたたちもやるわよ」


 そう言って、全員順にリリーに腕を掴まれて、体内の魔力を操作されていった。



「さて、じゃあ、全員とりあえず、魔力の動きを感じたはずだから、次はそれを自分で動かせるようにするわよ、それぞれ、さっきの感覚を思い出して、やってみなさい」


 リリーはそう言うと、静観する構えに入っていた。

 とりあえず、自分たちでやってみようと挑戦してみると、外から動かされるのと、自分で動かすのは勝手が違うらしく、全員が少してこずっていた。

 全員が顔を顰めつつ魔力操作の練習をしていると、急に拓也が、


「掴んだ! こうか!」


 と言って、魔力操作をものにした。

 それを見た結衣が、拓也に詰め寄り、


「え、もう出来たの!? ちょっと、教えてよ!」


 と、教わり始めたので、全員が教わろうと集まり、拓也にコツを聞いて、再度練習し始めた。


 拓也曰く、魔力生成器官を心臓と同じように考えて、魔力を血液のように流すイメージで、というので、そのイメージを試しながら、行うと、案外イメージが嵌ったのか、結衣以外はそれからほどなくして魔力操作が出来るようになった。

 結衣も、それからしばらくして魔力操作を出来るようになったが、その頃にはさすがに疲れたのか、荒い息をしていた。


「なんでみんなそんな簡単そうに出来たの……」


「……さあ? 俺らに聞かれても、分かんねえよ?」


 と、健司が答えていると、リリーがこちらに寄ってきて、


「とりあえず、全員魔力操作は出来るようになったみたいね、次の訓練と行きたいところだけど、さすがに疲れてるでしょうから、今日はもう終わりよ、お疲れ様」


 そう言って、先に訓練場から出て行ってしまった。

 それを見届けてから、


「……この後どうすればいいのか聞くの忘れてたな……」


「それなら、風呂入って飯だな! よし、ついて来い!」


 まだ残っていたらしいハロルドがそう叫んで、七人を連れて、歩いて行った。



 部屋に戻り、智貴はベットに倒れこむと、


「ああ~、疲れたあ!」


 そう言って、身体を延ばして、リラックスした状態になっていた。

 そのまま、微睡みはじめ、夢の世界へと旅立っていくのだった。

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