11eme. 前世の記憶は大事な思い出なのかも。
ヴァネットシドルという世界では、西と東が対立していた。
クロの前世は西ヴァネットシドルの戦士ギルドの隊長で、天の前世は同じ部隊の副隊長。きのみさんが魔導士ギルドの隊長で、俺がその魔導士ギルド長の娘だとか。
俺は何故、前世の天に悪い魔法使いが呪いをかけたのか聞いてみた。前世の天に何の恨みがあったっていうんだ。どうやら、そういうものでもないらしい。
悪い魔法使いは東の所属で、前世の天は西。
前世のクロが竜探しで消えた事により、実力的に隊長になったのが前世の天。東とのちょっとした小競り合いで、悪い魔法使いに目をつけられたのだとか。
目をつけられたってだけで、あんな酷い呪いを掛けられるのかよ。俺の言葉にクロは虫を踏んだような顔になった。
「そういうもんなんだよ、あの世界は」
戦争だって人との殺し合い、それに関しては向こうもこっちの世界も変わらない。
「だから、すまない。ソラ」とクロが俺に向けて頭を下げる。
「オレが竜探しなんかで部隊から消えなければ、その呪いを受けたのは間違いなくギムレット。オレだ」
結局のところ、悪い魔法使いは国境沿いの街に居る戦士ギルドの隊長を潰したかっただけ。
隊長であれば誰でもいいのだとしたら、前世のクロが対象となった筈なのだとか。
俺はクロを非難出来る立場なんだろうか。
前世のクロが何をしたところで、それは今は関係はない。押立鉄は俺の従兄で、命の恩人である事実は変わらない。
ミルクをたっぷり入れたコーヒーを一口飲んで、カップをテーブルに置いた。俺の部屋で正座をしたままのクロは、頭を上げる様子は無かった。
「……クロさ」
俺の言葉にクロは顔を上げる。不安交じりの表情を見て、こっちに罪悪感が沸いてくる。
「メアリーって誰?」
クロは瞳を丸くした。昨日あの時、天がアオさんを見てメアリーだと言ったのが、俺は少し気になっていた。
「メアリーは……ギムレット、前世の俺の想い人だ」
「……それがアオさんなの?」
「……かもしれないってだけ」
神妙な顔でクロは自分のカップを口にした。
「そんな似てるの?」
「瓜二つだ」
そして、クロは高校に入学してからの話をしてくれた。
前世の想い人と一緒のクラスになって、梨花をきっかけに仲良くなった。その流れできのみさんとも仲良くなって、すぐに彼女が前世の戦友だと知ったらしい。
アオさんがメアリーかは分からない理由は、彼女がクロを見てギムレットだと気づかないから。俺みたく前世の記憶を持っていないか、はたまた他人の空似なのか。
もしかしたらクロと天の状況って、かなり似ているのかもしれない。前世の記憶があって、その想い人と同じ顔の人が居る。そして、記憶があるかは分からない。
「だから、天さんの話を聞いて、すごいって思った」
普通は前世がどうとかって、信じて貰えるわけがない。自分に変な力があって、それを正直に打ち明けられた。
どちらも現時点で、クロがアオさんに出来ていないんだとか。
「やっぱ、ボルドシエルだっただけあって、強いんだな……」
「……」
俺は前世のクロと、メアリーの話を聞いてみようかと思った。
それをしなかったのは、メアリーという名前が出た時、クロが優しい目をしていたからだ。
従兄のあんな顔は、初めて見たような気がして。大事な思い出なのかも、って考えたら。前世の記憶の無い俺に、聴く資格なんてないんじゃないかって思ったんだ。
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