第22話 勝負にのるちびっこ

 アメリと桐絵は特別な友達になれた。最高の夏休みを過ごし、アメリは上機嫌だった。

 桐絵と前より近くなれて、桐絵からキスを求めてくれて対等に求め合う関係になれたのだ。これ以上ハッピーなことはそうそうないだろう。キスもとっても気持ちいいし、これまで以上に素敵な寮生活が送れそうだ。


「ちょっとアメリ、そんな格好でだらだらしないでよ……」


 だと言うのに、何だか桐絵の様子はおかしい。注意する言葉にも力はなく、どこか気恥ずかし気にアメリと距離を取ろうとする。

 キスが恥ずかしかった、とするには前にキスした時は変わらなかったのだから、理屈が合わない。


 アメリの家にいて遊んだりしている時はそれでもまだ普通だったのに、寮に戻って二人きりだと会話中にも露骨に目をそらしたりする。

 気を引きたくて頬にキスをしたり、挨拶にキスをして気持ちよくしてあげたりしているのに、桐絵ときたら頬を染めながらもそっけない態度だ。


 アメリから譲歩していると言うのに、何を子供っぽい態度をいつまで続けるつもりなのだ。

 桐絵はついに学校が始まってもその態度を変えないので、仕方なくアメリは週末前日まで待って、桐絵を問いただすことにした。


 逃げられないよう距離をつめ、急に確信をつくと誤魔化されてしまうだろうから、それとなく態度がおかしいところから聞くことにした。


「もう、桐絵さん? なんだか最近、妙に浮ついてるわよ? どうしたのよ?」

「ど、どうしたって、あんたねぇ」


 夏休み前より大人になれたアメリはそう気遣って聞くことができたのに、桐絵と来たら素直ではない。

 離れろだの、べったりするなだのと冷たい言い方をされてしまう。アメリのあふれる慈愛の心は急激に底をつく。


 こうなったら今日までアメリからばかりキスしてあげていたのだから、今度は桐絵からしてもらわないと許せない。

 とはいえ、キスしなさいと言ったところでしてこないだろう。桐絵が素直じゃ無さすぎるのは知っているし、そこも可愛いと最近思っているアメリは、そこは妥協してちゃんとアメリから理由をあげることにする。


「感謝してキスのひとつもしたらどうなのよ」


 と、そう言って促す。桐絵はやっぱり悪態をついたけれど、アメリが顔を寄せて準備をすると、ちゃんと応えた。

 やっぱり桐絵もアメリが好きでキスも好きなのだ。わかっていた。


 桐絵からされるのは、それだけで嬉しくなってしまう。求められている。それが実感されるだけで胸がくすぐったくなる喜びと、 気持ちよくなりたいと言う期待する気持ちでわくわくしてくる。


 なのにあっさり、桐絵は唇を離した。もっとしてもいい、と改めて許可してあげたのに、桐絵は何故か距離をとる。

 尋ねるとちゃんと気持ちがいいと答えるし、キスの誘いにものるくせに、どうしてそうも消極的なのか。


 と考えてぴんときた。

 キスをすると、頭がおかしくなるくらい、それしか考えられないくらい気持ちよくて夢中になってしまう。

 きっと桐絵はそれを素直に受け入れきれなくて、おびえているのだろう。確かに最初はアメリも、こんな気持ちいいものがあるのかと信じられないほどだった。


 可愛い。とても外見相応で可愛い。だけどそれではだめだ。それでは気持ちいいキスができないので、認められない。

 だからここは強引にでもキスをする展開にもっていかなければならない。少しくらい気が進まなくても、負けん気の強い桐絵なら挑発すればのってくるだろう。

 そうしてどうなってしまうのかわからない怖さすら乗り越えて、夢中になってしまうくらい快楽におぼれさせればいい。アメリは天才である。


「怖いんでしょう? もっと気持ちよくなってしまうのが」

「っ、ふ、ふざけたことばっか言わないで」


 きっと強く睨んでくる桐絵は少し涙目で、うまくのってくれていることにしめしめと思いながら、アメリはそっと桐絵の頭を撫でる。


「いいのよ、強がらなくても。桐絵さんが怖がりで弱虫でも、慰めてあげるわ。よしよし」

「ばっ、―――っ」


 その手触りのよさになごんでいると、勢いよく押し倒された。油断していて普通に頭をぶつけた。

 とても痛い。


「いったぁ、ちょっと、いくらなんでも乱暴じゃない」


 さすがに普通に文句を言うと、桐絵はとりあわずに虚仮するなと逆に怒ってきた。アメリにはよくわからなかったが、しかしそれほど怒っているなら想定以上なのでちょうどいい。


「当然。怖いわけないでしょ。馬鹿にするのもいい加減にして。じゃないと……あんたをめちゃくちゃにしちゃうかもしれない」


 めちゃくちゃに、と言われた単語にどきどきと胸が高鳴った。キスをすると馬鹿になっちゃうくらい気持ちよくて、確かにあれは理性が飛んでめちゃくちゃになってしまっていると言えるのかもしれない。

 桐絵が思う様に、めちゃくちゃにされてしまうんだ。そう思うと期待と、してもらえるように桐絵を誘導できるか少しの不安で呼吸が荒くなりそうなのを抑える。


「……ふぅん? 口先だけで何と言われたって、そんなので私が謝るとでも思っているの?」


 何の話をしていたがドキドキしすぎて忘れたけれど、桐絵はアメリを屈服させて謝らせたいみたいな言い方だったのでそう答えた。

 口先なんて意味がない。ちゃんとその口で行動してわからせてもらわないと。


 そこまで言ってようやく桐絵は覚悟を決めてくれたようで、アメリに降りかかるように上からキスをした。

 散々じらして唇をはむはむしてから遠慮なく舌もはいってくる。待ってましたと受け入れると先日と違って舌だけではなく口内全てを気持ちよくさせる動きで、あっちこっちが気持ちよくて混乱してしまいそうになる。


「んっ、つっぁ」


 気持ちよくて頭がめちゃくちゃにされてしまって、最後は唾まで飲まされたのに、嫌ではなくてもっとしてほしい。もっと普通じゃないことをして、気持ちよくしてほしい。


「ん……き、りえさん、はぁ」


 名前を呼んで、もっと、と求める。アメリを見下ろす桐絵はいつもの可愛さだけではなく、アメリが求めるものを与えてくれると思うとなんだかきりっとした眉と赤く苦しそうな艶っぽい表情は格好良くも見えてくる。

 可愛いだけじゃなく、格好良くて素敵で、普段偉そうなのにおびえてなかなかキスをしなくて、いつも優しいのにキスは少し強引で、桐絵の全てが好ましい。

 これを、きっと愛と言うのだろう。桐絵のことなら、髪の毛一本でも大切にしたいと思えた。


「はぁ、アメリ……いくらあんたでも、これで満足でしょう?」

「?」


 だと言うのに、桐絵は理解できないことを言う。まだまだ、これからではないのか。満足するわけがない。また怖気づいたと言うなら、何度でも火をつけるだけだ。


「あら、何を言っているのかしら、桐絵さんは。この程度でギブアップだなんて」


 しかし桐絵は、お礼なら十分だろうなどと訳の分からないことを言ってくる。そう言われて少しだけ熱の下がった頭で、確かにキスの最初のきっかけはそれだったと思い出す。

 だけどその後にもさんざんやりとりをしたのだから、もうそんなの忘れていた。どうでもいい。


「わ、私だってねぇ、あなたがキスしてほしいっていうからしてあげたんじゃない。私の方こそ感謝してほしいっての」


 だからそのまま言ったのに何故か桐絵はショックを受けたように驚き、アメリがもう一段階挑発するとそうにらんできた。

 確かにアメリがキスをしたくなってそう促したのは事実だが、しかししてほしいとは言っていない。そうなるようにしたけれど、してほしいとは言っていない。そんな恥ずかしいことは言わない。


「素直に言ったなら、もう一回キスしてあげてもいいけど?」

「し……させてあげてもいいわ」


 にっと笑った悪戯っ子のような桐絵の表情が魅力的すぎて、してと直接おねだりしそうになってしまったので、片目を閉じて桐絵の顔を見えにくくしてこらえた。


「してほしいのかって聞いてるの」

「……っ、この私が、いつまでも桐絵さんに譲歩していると思わないことね!」


 なおも追及され、その桐絵の魅力に、もうこんな問答をする時間に耐えられなくなったアメリは勢いよく桐絵を持ち上げた。


「うわっ!?」


 勢いで立ち上がるまでは行けたが、そこから急に重くなったが、落とすようにしてなんとか桐絵を自身のベッドに転がした。

 文句を無視して、ゆっくりとベッドに膝であがって桐絵に覆いかぶさる。


「この私にキスをねだらせようだなんて、生意気な桐絵さん。次は私の順番だわ」

「じゅ、んっ」


 もう我慢できない。強情な桐絵からを待っていられないので、アメリからキスをする。


「ぁんぅっ」


 さっき気持ちよかった桐絵のキスを真似る様に、もう一度同じ快感を得たくて口づける。

 だけど不思議で、さっきの逆と言うだけなのに、全然快楽の種類が違って、また違う気持ちよさに普段なら動かないほど舌が勝手に桐絵を求めてしまう。

 桐絵がついに素直になったのか、アメリに抱き着いてきた。それが嬉しくて、桐絵から体に触れられているのが何故か気恥ずかしいような別種の気持ちよさがあって、体から力が抜けて桐絵に重なる。

 前面に触れた桐絵の体の感触をもっと感じたくて、無意識に腕を動かして桐絵を抱きしめかえしていた。


 さっきと逆に、アメリの唾が桐絵の口に入る。それを飲み込むのが、感触でわかる。それが妙な興奮を引き起こし、先ほどまでと変わらない快楽のはずが、さらに引き上げてしまうので、また夢中になってそれを繰り返してしまう。


「んはっ、あっ、はぁ、はぁ」

「あぁ、ふっ、ふぅぅ」


 息ができなくて死んでしまうんじゃないかと言うくらいキスをしてから耐え切れずに唇をはなした。向き合う桐絵の表情は、今まで以上に色っぽくて、とても疲れたのにまだキスがしたいと思った。


「……」


 桐絵が好きだ。どうしようもなく大好きだ。

 桐絵とずっとキスがしたいし、桐絵以外のものはもうどうでもいい。桐絵に自分だけを見て、自分だけのために存在してほしい。


 これがきっと、恋なのだろう。なんて素敵なんだろう。こんなに嬉しくて、ドキドキで苦しいのさえ楽しくて、キスがこんなに甘美で、桐絵への思いで目がちかちかする。


 告白をして恋人になろう。そうすれば正式に桐絵はアメリのもので、アメリだけとキスをしてくれるのだ。いつだってアメリを見てくれるのだ。

 そう思って、だけど告白を口に出す前に、桐絵の表情が変わる。


 快楽でとろけた顔から、まるで後悔しているような、途方に暮れた子供のような、泣き出しそうな顔に見えた。


 そして理解する。桐絵はまだ、キスの気持ちよさすら受け入れられなくて、自分の感情すら理解できていないのだ。だからこんなに、キスで困った顔になるのだ。


 だったらしょうがない。こんなに少女じみた桐絵が好きなのだから。どんなに偉そうでも実際に年下の桐絵なのだから、関係を進展させるのはまってあげよう。

 そして今までそうしてくれたように、アメリが桐絵を導いて、これが恋なのだとわからせるのだ。


 それまで、恋人関係はお預けだ。だけどそれも悪くない。どうせずっと一緒なのだから。恋人になってしまってから人生はずっと続くのだから。なら、それまでの関係を簡単に終わらせるのももったいない話だ。

 この戸惑っている可愛い桐絵とキスできるのは今だけなのだから。


 怖がっていない、強がりじゃない。と言質をとってから、アメリは高らかに宣言する。


「これからももっと、たくさんキスをしましょう?」


 顔を寄せて、驚く桐絵にアメリは告白ギリギリのラインを狙って思いを伝える。


「気持ちよくて怖くて、たまらないからやめてってお願いしたくなるまでキスをしましょう。そうして、もし桐絵さんが負けを認めたなら、勝者の権利として、どんなにお願いされたって構わず、もっとすごいキスをしてあげる。覚悟しなさい」


 そうしてもっともっと桐絵を気持ちよくさせて、怖さなんて乗り越えてくれた時には、きっと正式に恋人になれるだろう。

 その時がとても楽しみだ。だけどその反面、


「上等。そこまで言うなら、私だって手加減しないよ。アメリがこれ以上は無理っていうくらいキスをして、罰としてもっとめちゃくちゃにしてやるよ」


 この何もわかっていないのに生意気で、反発心だけで受けて立ってしまう可愛い桐絵を見れるのは今だけで、まだしばらくはこの桐絵と恋人未満を楽しみたいと。そうも思った。


 こうしてアメリの、とっても楽しいキス生活が始まる。





 おしまい。




 本編これでおしまいですが、もうちょっとだけ続きます。

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