第95話 みどりのぶり大根
みどりの待つ自宅マンションについて、深呼吸した。
「・・・今日は普通に夜10時に帰る予定だったのに、真智子さんのアパートによってしまったからもう12時・・平静をよそおわないとなあ・・。」
と覚悟して帰宅した。
ドタドタ・・というスリッパの音がしたと思ったら
「・・こらあああ、遅れるなら遅れると連絡しないとみどりさんしんぱいするじゃないかあ・・・」
と案の定、目を三角にして怒っている。
「・・しょうがないじゃん・・仕事に夢中になってたんだから・・・」
とシラを切ってみせると。
「・・まあいい、顔みせさない顔・・」
と言ってみどりは自分の両手で銀次郎のほっぺたをつつんだ。
何をするのかと思ってみていると、こっちを数秒間見つめた。
自分は”さっきのこと”がばれるのではと鼓動が脈打っていた。
・・・しばらくすると彼女はにっこりし、銀次郎を見たまま相好を崩した。
「・・・なんてかわいいんだ・・・」
今更ながらこういうみどりの仕草ひとつひとつがかわいいと思う、頭がクラクラ・ぐるぐるしてしまった。
もうだめだ。
「・・か・・かんべんしてください・・」
そういって自分ががっくりと肩を落とすと
「・・はいー、みどりさんの勝ちいいい・・・!」
と彼女は拳を上げながら勝ち誇った。
彼女の精神のありかは1年以上共にくらす自分でもわからない。
気分を取り直して二人で遅い夕食をとろうとし、テーブルについた。
しばらくすると自分のきらいな”ブリ大根”が出てきた。
内心
「・・やだなあ・・これ・・」
と思った。
体調によっては食べられるのだが最近は匂いが強いものはたべられなくなってきている。
気づくと正面でこっちをみつめるみどりさんがいる。
「・・今内心『やだなあ』と思ったでしょ。・・」
まずいと思って
「・・・そんなことないよ、みどりさんの作ってくれるもので、おいしくないものなんてないですよ。」
と言ってしょうがなく一口箸をつけた。
「・・・!!」
案に相違しておいしい。びっくりした。
ぜんぜん匂いがせず、うまいのだ。
不思議なことにどこかゆずの香りもしている。
「・・でしょ?」
その日の夕食、自分は珍しくご飯のおかわりをした。
寝るときにみどりをしっかりと抱きしめると
「・・みどりさん、いつもありがとう・・。」
と彼女に言った。
彼女は
「・・それじゃあもうちょっとみどりさんのために早くかえってくること・・」
と言った。
”みどりがいるからこそ、俺は仕事もできるし・・精神のバランスが保たれているんだよ・・・ほんとうにごめん。”
心の中で、あらためてそう思った。
真智子とのことはあれがたった1度の間違いであればいい。そう自分勝手に思ってしまった。
※団体名・個人名・会社名などすべて仮名です。
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