第75話 あなたのためにできることを


「女の子確定だそうです」

「女の子!! ……女の子ですか、はああ……、咲月さんが産む女の子……ぜったい可愛い……」

「隆太さん、気が早すぎて言葉もないです」

「はああーーー、誰かの奥さまになるのかなあ……俺は咲月さんを奥さまにさせていただきましたけど、はあああ……罪深い……」


 先日の検診で女の子確定と先生に言われて、隆太さんに伝えた所、テンションが壊れてしまった。

 私は元気に生まれてきてくれればどっちでも良い。

 名まえを考えるのが楽になったな……程度だ。

 それは隆太さんも同じだったみたいだけど、リアルに言われるとまた違うようだ。

 

「では、行ってきます」

「はい、気を付けて」


 私は玄関で手を振って見送った。

 ついに先日から無事に産休に入った。

 最後のほうは仕事も全部引き継いでしまい、やることがなくなって困ってしまった。

 でも直前まで仕事はできないし、これが当たり前なのだろう。

 そして待ちに待った産休は、オタク的に最高です、ありがとうございます!!


 朝隆太さんを見送り、皿を洗って基本の掃除を終えても、まだ9時。

 これが二か月も続くなんてパラダイスすぎる。


 でもまあ、最後ののんびりタイムかな……と思っている。

 私はなんとなく産後は一人で頑張る覚悟している。


 隆太さんはものすごく手伝ってくれるだろうけど、仕事が忙しすぎるのだ。

 それに私にしか子どもを産めないというなら、隆太さんには仕事してもらうしかない。

 隆太さんが本領を発揮するのは、私が仕事に復帰してからだと思う。

 うちの会社は保障が手厚いけれど、給料は良くない。

 二人で働いて丁度良い。

 ぜったい仕事はやめたくないし、仕事に復帰してから隆太さんには山ほど手伝ってほしい。

 だから今はバリバリ働いてほしい。

 そんなこと伝えても否定するのは分かっているので、覚悟だけ!


「さてと、始めますか」


 私は掃除に飽きてPCの前に座り、ワラビちゃんに通話を繋いだ。


『おはようございまーす、二徹目で~す』

「おはー。今日も推定ワラビちゃんになってるよ」

『やめてください、その謎ワード。それ聞いて響さんがめっちゃ笑ってました』


 先日二人して韓国ドラマに沼落ちして、今も見ながら作業をしている。

 飲食店ざまぁも見たし、今見ている絵本作家はサイコパスすぎる。

 韓国ドラマはキャラのパンチが強く、見ていて楽しい!

 ワラビちゃんは商業の仕事の締め切りがきているらしく、頑張っている。

 私はそれを手伝いつつ、ラリマー艦長からこっそり引き受けた仕事をしている。


 実はデザロズがライブをネット配信することになり、配信用公式イラストとロゴ、そして配信周りのデザインを依頼された。

 もちろん「体調最優先で」という気遣い付きだ。


 私はずっと隆太さんがライブに行かないことが気になっていた。

 このライブ配信も最初隆太さんが動いていたのに、仕事が忙しくて関われなくなっていた。

 今や配信のこと自体忘れていると思う。

 それくらい忙しいのだから、週末くらい気分転換に行けば良いのに……と思っていた。

 妊婦としてはかなり優秀で(体重以外!)数時間のライブに参加するのは大丈夫だと思うんだけど、心配性すぎて行かない。


 正直私は妊婦になってもオタ活は全く変わっていない。

 唯一変わったのはイベントに行けないことくらいだ。

 でも毎年冬コミしか参加していないので、あまり『出ていない』気がしない。

 隆太さんも好きにしてて良いのになあ……と少し思っていた。

 

 だから頑張っている隆太さんへのサプライズとして仕事を引き受けたのだ。

 久しぶりのオリジナルデザイン、楽しい~!


「ねえねえ、これさあ、どっちのレイアウトが好き?」

『う~~~ん、右ですかねえ。これ女の子たちのサイズ、バラバラなの良いんですか?」

「一応センターののんちゃんは大きめにしてる」

『ロゴはどこにくるんです? 左のだとセンターですよね』

「そこが難しくてさあ~~」


 私たちはキャイキャイと韓国ドラマを見ながら作業を続けた。

 正直めっちゃ楽しいです、産休サイコー!

 そして昼になると、ワラビちゃんがスマホの画面を見ながら言った。


『あ、もうすぐ板橋便が到着するみたいです』

「なんかもう……申し訳ないよ」

『黒井さんが食べているメニューと同じのを私も食べてるんですけど、貧血が良くなりました。私のためにもアリな食事です』

「優しいなあワラビちゃん……助かるよ……」


 響さんが出張から帰ってきてからは、再びお邪魔を控えていた。

 でも私用の料理を作るのが楽しくなってしまった板橋さんは、ついに食事のデリバリーを始めてくれた。

 もうほんとうに申し訳ない。

 でもワラビちゃんも画面の向こうで一緒に食べているから気が楽だ。


 結局二週間以上かけて、イラストとロゴを完成させた。

 今回はちょっと興味があった3Dソフトも使って動かしてみた!

 隆太さんには秘密にしたので、反応が楽しみ!




 

 産み月に入った日曜日、初のネットライブが開催されることになった。

 隆太さんはなんとか仕事を落ち着かせて、朝からゆっくりしていた。

 ずっと朝7時に出社して、24時に帰宅する地獄の生活をしていたので体調を心配してたけど、今月から楽になると聞いて安心した。

 

 ライブ配信されるサイトをテレビにアウトプットしてみると、ちゃんと映った。

 隆太さんはラリマー艦長と電話しながらカメラの位置を指示する。


「カメラ位置は良い感じです」

『照明はどう?』

「横のライトが強すぎてちょっと影が出るかも知れません」

『弱めてもらうわ』


 まだライブが始まるまで時間があるが、先に接続させてもらい、配信の最終チェックをしている。

 隆太さんはいつも通りのライブ会場が画面に映っていることに興奮している。

 実は私、ライブを見てみたいなあと思いつつ、一度も行けてないので(隆太さんがエンジョイできる所にお邪魔するのも悪くない?)今日は楽しみにしていた。

 ラリマー艦長はカメラの最終確認を済ませて、こっち側を見た。


『こんな感じで良いかな。一回後ろのモニターに映像が出るか、テストさせてくれ』

「はい」

『じゃあ、出して~!』


 そう言ってラリマー艦長が舞台から降りると、モニターに突然デザロズが出た。


「?!」


 私は目を見開いた。

 まだライブ始まる時間ではない。

 画面にはのんちゃんと他のメンバー全員が映っていた。

 というか、まだ衣装も着替えていない素顔に近い状態に見える。

 隆太さんのほう見ると、私の肩を優しく抱いてくれた。

 ちょっとまって! サプライズするつもりがサプライズされてる!?

 モニター内でのんちゃんが口を開く。


『ライブが始まる前なんですけど、咲月さんにイラストのお礼が言いたくて無理を言いました。どうですか~? 私が見えてますか~? 今舞台裏から生中継ですよ~』

 のんちゃんはそう言って手をふった。

 もうすでに涙ぐんでいる隆太さんが私にスマホを渡してくれた。

 もう……仕掛けたほうが泣かないでくださいよ……。

 私はそれを受け取る。

「見えてますよ! ばっちりです」

『こうやって、ライブ会場で見られない人に届けられるの夢だったのでうれしいです! あのすごく気になってたんです、大丈夫でしたか、産休中に。艦長が無理に頼んだんじゃないかって心配で……』

「暇していたので、逆に楽しかったですよ。また関わらせていただいてうれしいです。デザロズの皆さんこそ、今日のライブ、頑張ってくださいね!」

『はい!』


 そう言うと舞台の上に片蔵さんもラリマー艦長も出てきて、画面に映りこんで手を振ってくれた。

 そして片蔵さんは『滝本~、落ち着いたら来いよ~~。咲月神さま、今回もお世話になりました~~』と楽しそうにジャンプしている。

 隆太さんはもう私の横でドロドロに泣いている。

 そしてモニターテストという名の生中継は切れた。

 私は隆太さんにスマホを返して、ライブで泣いた時ように準備していたタオルを渡す。


「……もう、びっくりしたじゃないですか」

「びっくりしたのは俺のほうです。ライブ用のイラスト作業されていたなんて。あっ、絵はまだ見てないんです。咲月さんと一緒に見たいと思って」

「サプライズしようと思って、サプライズし返されたー」

「サプライズにしていることを片蔵が知らなかったのが問題でしたね。デザロズのほうから、一言挨拶したい……と言われたようです」

「もう……隆太さんってば、教えてくださいよ!」

「咲月さんも、言ってくださいよ」


 私たちは今日のために準備したノンアルコールビールで乾杯した。

 今日はお祝いだから、きっと許される。

 ビール風飲料は、予想以上にビールで驚いた。

 そして時間になり、舞台が暗くなりライブが始まった。

 会場は満席で、画面から熱気が伝わっている。

 コールというのだろうか、みんなが声を合わせて会場のテンションを上げていく。

 配信を見ている人は800人を超えた。

 デザロズの人気すごい!

 そして後ろのモニターに私が書いた新作の絵が映った。

 会場が、わっ……と盛り上がった。

 隆太さんはそれを見て身を乗り出す。


「ふおおおおお……!! このイヤリング、初期型を進化させたバージョンなんですね?! あ、ちょっとまってください、前回の衣装の……」


 と設定に興奮しかけて、スッ……と無理矢理落ち着いて、私のほうを見た。


「まず書いてくださった咲月さんにお礼を言います。すてきなイラストをありがとうございます」

「途中で思い出すなんて、進化しましたね」


 私は思いっきり笑ってしまった。

 隆太さんは優しく私を抱き寄せて力強く言った。

「前回の誕生日と同じ失敗はしません」

 私は笑えて仕方ない。

 隆太さんの頬にキスして

「合格です」

 とほほ笑んで、すでに印刷しておいたA1サイズのポスターを手渡した。

 すると飛び上がって喜んで、再び設定の世界に戻って行った。

 隆太さんらしい!

 

 ライブはほんとうに最高で、こうしてネットで見られるなんてうれしいですねと歌いながら見た。

 今度はコールも勉強しようっと!

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