第15話 一粒のアメと遠い過去

 今日は何だかいつも以上に疲れている。

体も心も重い。仕事のせいなのか、梅さんとのお別れのせいなのか。


 ベッドに仰向けになり腕を伸ばして指先に持つアメを照明のひかりに照らしてみる。

梅さんから最後にもらったアメは、みかん色に輝いて見える。


 どうしようかな。

やっぱりそのまま元のオルゴールの箱に戻しておこうかな。

木製のそのオルゴールは、もうずっと前に母から譲り受けた。そこから流れてくる禁じられた遊びという曲は何だか物悲しい。


 何だか寂しいなぁ。

心にぽっかりと穴が空いてしまったような気がする。別に梅さんから貰ったアメを疑っているわけでは無いのだけど、いつもなら口に含むことなくそっとしまっておくはずだ。でも、こんな時はいつもと違う行動をしてしまう。オルゴールの箱の蓋を開けかけて止め、まぁいいかと、口の中にみかん色のアメを放り込んだ。


 普通にみかんの味がすると思った瞬間に、体が奥深く何処までも沈んでいく。何の抵抗もできなくて、ただ身を任せるしか無い感じ。目覚めているのかも眠ってしまっているのかもわからない。

ただ、ただ落ちていく。


 何処まで落ちたのだろうか。全く何の衝撃も無く何処かに着いたことは解るが感覚が無い。そっと目を開けてみる。

此処は何処なんだろう。不思議に不安は感じない。

立ち上がり辺りを見回してみる。

 

 微かに蝋梅の甘い香りがした気がして、その小さな黄色い花の咲く枝に手を伸ばしてみるが触れることが出来ない。手先を見ると私の体が透き通っていることに気がついた。魂だけが時空を超えたのだろうか。


 ここは四季を愉しむための様々な趣向が施された庭園のようで、池には朱色の小さな橋が架かっている。

 その橋の上には異国の色彩あざやかで煌びやかな服装を身につけている若い女性が一人立ち尽くしている。


 その女性は肩を震わせ嗚咽を堪えるように泣いていて、何がそれほど辛いのかと見入っていてようやく気付いた。

 

 そう、あの女の人は遠い昔の私なんだ。

私の意識は遠い前世へと深く沈んできたのだった。

 

 


 

 





 

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