最終章 誕生 第3話

 一方、上流では三頭のシカが、同じように砂防ダムに沿って沢を横断しようとしているところであった。下流の銃声に驚いて、パニック状態に陥り、二頭が一段下の砂防ダムへ、一頭がそのままの高さにあった砂防ダムへと走りこんでいく。


 まずは、下の砂防ダムに向かった二頭の先頭が飛び上がるように動いたかと思った瞬間に「ダーン!」という五発目の銃声が響いた。飛び上がったシカは、背中を下に雪面を滑り落ちていく。


 続く二頭目は、同じ場所で前脚を折りたたむようにしゃがんだように見えた瞬間に銃声が聞こえて、その場で動かなくなった。


 上流に向かった一頭は、砂防ダムを渡り切って沢の右岸側にたどり着いたところで、最後の段差を登り切れずに躓いたように見えた瞬間に七発目の銃声が響いた。


 最後の段差を登り切れなかったシカは、その下の砂防ダムまで滑り落ちて止まった。


 最後の発砲から約一分後、リーダーの武井からの無線が入った。


「射手が見える位置まできました。脱包してください。終了です。上流の射手から結果を知らせてください」


「柴山です。脱包しました。一頭来て、一頭倒れています」


「後田です。脱包しました。二頭来て、二頭倒れています」


「松山です。脱包しました。四頭来て、二頭倒れています。残りの二頭は下流へ走って、見えなくなりました」


「瀬名です。脱包しました。二頭来て、二頭倒れています」


「坂爪です。脱包しました。私のところは捕獲ありません」


「了解。足場が滑るので、十分気をつけて回収作業をお願いします」


 記者が撮影できたのは、全体写真と望遠レンズでようやく撮影した射手が銃を構える姿だけであったが、目前で見せられた一連の捕獲作業は、脳裏に深く焼きついた。


 黒澤が解説しながら、回収場所へと記者を車で案内する。


 その間に、捕獲された七頭が、合流場所の道路脇へと引き出されていた。


 並べられた七頭は、どの個体も大きいメスであった。


 黒澤の解説で、すべての個体が妊娠していることや、この時期にメスを捕獲することが個体数調整では有効であることなどが伝えられていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る