第6章 実践 第10話

 翌日は、四人に現実は上手くいかないことの方が多いと認識してもらうために、あえてワイルドライフマネージメント社でも過去に失敗した場所で行うことにした。


 通称、大型砂防ダム下と呼ばれるポイントで、追われたシカは砂防ダムの脇を抜けるので、一列になって撃ちやすいと思われる場所である。


 二つの沢が合流するところに作られた砂防ダムで、二つの沢のどちらの上流部からシカが出るかはその時次第なので、合流部に一名、その直ぐ横で砂防ダム脇を抜けようとするシカを撃てる場所に一名、砂防ダムの下で脇を抜けてくるシカを撃てる場所に二名を配置することにした。


 ここは、確かにシカが抜ける通り道であり、射手の配置場所としては最適なのだが、逆に集まりすぎてしまって、一発目を撃つとその銃声で、群れ全体が猛ダッシュしてしまい、なかなか命中させるのが難しい状況になってしまうのである。


 過去、坂爪、武井、竹山が痛い思いをしている場所でもある。


 配置は、合流部に瀬名、その横に柴山、ダム下に後田と松山が入り、山里が勢子に回った。


 武井は、昨日の捕獲個体五頭を午前中に清掃工場に持ち込むことになり、このラウンドには参加していない。黒澤は後田よりもさらに下流に、坂爪と竹山は四人がいる沢ではなく、もう一本西にある沢で待機することになった。


「配置につきました」


と一番遠くの配置についた坂爪からの無線を受けると、山里から開始の連絡が入った。


「では、開始します。矢先の確認をよろしくお願いします」


 開始の無線が入ってから約五分後、松山が合流地点から上流を見ていると右の尾根筋を下ってくるシカの群れが見えた。少なくとも、六頭はいる。


 この段階で、動くことも無線も入れることもできない。


 間違いなく、自分の射程内を通過する。


 発見してから約三十秒で、シカは瀬名の前方約三十メートルのところを右から左に走り抜けていこうとした。


 先頭を行くメスを狙って銃を構え、良く狙って発砲したが、シカは倒れない。続いて二発目を撃つが、これもシカには命中しなかったようだ。


 最初の銃声とほぼ同時に、柴山もシカを発見していた。


 瀬名が二発目を撃った時には、先頭のメスが砂防ダムの脇を登ろうとしている瞬間だった。


 柴山は、そのメスをめがけて一発目を撃ったが、メスの後ろ足当たりで土煙があがるのが見えた。


 完全な失中である。


 それが確認できてしまったことで、二発目は余計に力が入ってしまい。三頭目のシカを撃ったが、これも失中してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る