第4章 練習 第12話
残り五発。もう四人は、汗びっしょりという状況だったが、山里は六番射台へと誘導した。
「ここでは、プールを撃ちます。さっきと逆ですが、見越しの距離は同じです」
後田は、今度こそ引き止まらないぞと勢いこんで射台に入った。
「ハイ!」・・・バン! しかし、クレーは割れない。
「畜生!」脱包しようとした後田の腕を、後に立っていた山里が素早く押さえつけて動きを止めた。
「気をつけて!そのように銃を開放すると、ほら銃口が人のいる方向に向いてしまう。命中させることにだけこだわると、安全が疎かになってしまうから、冷静に冷静に。畜生!って叫んでも、クレーは割れないから」
後田は、まさに汗びっしょりの状況だろう。
銃を開放させると、山里は一呼吸おくように指示して、「引き止まらないように、引き金を引く瞬間にちょっと左手で先台を右に押すようなイメージをつくってごらん」と助言した。
「はい、わかりました」と答えると、後田はひとつ深呼吸をしてから、再度コールした。
バン!
でも、残念ながらクレーは割れない。
それでも、今回はさっきの指導があるだけに、銃口を変な向きにして薬室を開放するようなことはなかった。
「惜しかったね。良い感じだったよ。今度は、ちょっとお手伝いするからもう一度構えて」
そう言うと装填して銃を構えた後田の後に立って、両腕で後田の肩に軽く触れた状態をつくった。右手は、右肩を軽くつかんでいる。左手は、左肩に添えている程度だろう。
「違和感があるだろうけれど、頑張って撃ってみましょう」
「わかりました」
山里が触れていることはなるべく意識しないようにコールした。
「ハイ!」
放出されたクレーに同調するように後田の体が回っていく、引き金を引こうとした瞬間に、山里が後田の左肩をチョンと押したように見えた。
するとクレーは、これまでになかったくらい粉々に粉砕されて、横のネットまで飛んでいった破片はないくらいだった。
「おぉ!当たった」
後田が声を上げる。
「ナイスショット!」と山里が声を掛ける。
「なんとなくわかりました。先生がちょっと押してくれた感じで、これまでスイングが止まっていたということが感じられました」
「そう。良かった。じゃ、その感触が残っているうちにもう一回撃ちましょう」
「はい」
四、五発目には、見事に命中されることができて、射台を出る後田の顔にも笑顔があった。
前の人の射撃を見ることができるお陰で、三人は多少有利だった。松山が三枚、柴山が四枚で、瀬名が二枚、一ラウンド分二十五発の射撃が終了した。
控え室に戻ると、見学していたスタッフからは、口々に「みんな上手いなぁ」と言ってもらえた。
結局、一ラウンド目の合計スコアは、後田が十三枚、松山と瀬名が十四枚、柴山はデビュー戦でありながらなんと二十枚も当てていた。
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