第4章 練習 第6話

「十二番のなかでは、後田君の銃が一番軽いので引き止まり易いと考えられるけれど、山で持ち歩くことを考えれば一番良い銃ということになるかな。


 松山君のレミントンは、正直なところ俺の年齢と体力では重くてつらいからね。瀬名さんの銃は軽いけれど、瀬名さんの体格を考えればバランスは最高だと思う。一長一短ということだから、その特徴を生かすように工夫することだよ。


 銃は、我々にとって重要な道具ということだから、その特徴を知って運用方法に習熟すれば良いわけで、手になじんだ道具が職人にとっては、重要な財産となるわけだから、まずは自分の道具を大事にするところから学ばないとね」


 そのとおりだろう。松山の父親は大工であり、商売道具はとても大事に管理している。その影響もあってか、彼に譲った銃もきちんとメンテナンスがされていて、職人が何を大事にしているかが伝わってくる状態であった。


 射撃場についてから、小一時間が経とうとしているが、まだ撃てる段階にはきていない。移動中の車の中では、それこそ到着次第にバンバンと撃ちまくるようなハードな練習があるかと勝手に想像していたが、とんでもない誤りだった。


 自分の使う銃について知らなければ、事故にもつながりかねない。狩猟グループでも、ある程度の指導は行われていたが、銃口を危険な方向に向けるなとか、引き金に指をかけるなという教習射撃時に聞いたことと重複していた。


 今日は、まず自分の使う自分自身が用意した道具である銃について、目を向けさせられた。このステップがなければ、その後の道具への愛着が変わったかも知れない。


「じゃ、教習射撃で学んだことの復習からやっていこうか。教習を受けた射撃場ごとに、若干やり方が違うかも知れないけれど、まずは自分の銃を分解、点検、結合してもらおうか。各自このテーブルでやってみてください」


 えぇ~、マジかよ!四人ともいきなりの実技試験を言い渡されて、動揺してしまったが、後田が「じゃ、僕からやります」と一応、一番長い所持歴を自慢していただけに、名乗りをあげた。


「では、まず分解していきます」


 彼は、手慣れた感じに、上下二連の先台を外すと銃身と銃床を分離してテーブル上に置いて見せた。


「OK!大丈夫だね。銃を手にした直後に、薬室内に弾が入っていないことも確認しているし、銃口の向きや、引き金に指が掛からないようにと注意している様子が見えるよ」


 と山里が褒めてくれている。


「では、続いて、点検と結合までやってください。異常の有無もしっかり発声して」


「はい」


 後田は、指示にしたがって点検と結合を行っていく。


「銃身異常なし。先台異常なし。結合部異常なし。安全装置異常なし。引き金異常なし。点検と結合終了しました」


 そう報告すると、銃を銃架に戻して終了となった。


「上手い!まったく問題なしだ!銃にも慣れている感じがあって、とても良かった。じゃ、次は」


「はい。俺がやります」と松山が立ち上がった。

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