第3章 入学 第25話

「単純にこれが必要経費だから、これに利益となる金額をクライアントには請求しなければなりません。そうすると、事業費はもっと大きな金額が必要となるよね」


「そうか。儲けなきゃだ」


「そうなると、例えば必要経費の八十パーセントくらいを利益として上乗せさせたら・・・、おい!六百七十一万四千円だぞ」


「えぇっ、そりゃ高いよ」


「そこで、君たちに考えてもらいたい。どうやったら、利益を生み出せるかな」


 凄い実践的なというか、生々しい話になってきた。自分が事業者だったら、どうやって利益を出したら良いのかを考えられなければ、生き残ることはできない・・・。


 口火を切ったのは、計算に強い瀬名だった。


「もっと短い日数で百頭を獲れればいいんじゃない」


「おう、そうだ。そうすれば人件費が減る」


「でも、どうやって減らすんだよ」


「ワナの数を増やす。倍の百基にしたら、百日で終わりだ」


「そんな簡単にいくのか?」


「計算上ではな。でも、百基も見回るのは大変だから、作業員を増やすってなったら、同じことだぞ」


「じゃ、捕獲効率を0.01から0.02にあげるとか」


「そりゃ、虫が良すぎないか。頑張ってみて0.01が良いところだろう」


「そうだな。じゃ、日当を下げる」


「それじゃ、俺はアルバイト辞めちゃう」


「う~ん、それならどうしたら良いんだよぅ~」


 学生の意見が一通り出きった頃合いに、武井が言った。


「予算全体で一番大きな割合を占めているものを縮小できると効果は大きくなるねぇ」


 明らかに予算中で一番のボリュームは、人件費だ。


 三百七十三万円の中で三百二十万円、実に八十六パーセントが人件費だから、ここを圧縮できればその効果は大きい。


「でも、日当を下げたら辞められてしまいます。ワナの見回りの安全性を考えれば、一人にするわけにもいきません。一人で見回りして、もし怪我でもしたら・・・。無理です」


「そう考えてしまえば、無理だよね。では、他の業界というか他の仕事を参考にしてみたらどうかな」


 武井の講義は、ともかく考えさせる形式をとる。ヒントは出してくれるが、なかなか答えにはたどり着けそうもない。


 四人がしばらく考え込んでいると、武井から再びヒントが出された。


「人件費というのは、人に対して支払われるお金だろ。人でなければどうかな」

 すると後田が、


「あっ、そうだ。人じゃなくて機械で代行すれば良いんだ。ほら、道路工事現場で、誘導する人の代わりに信号機をおいてあったり、人形が旗を振ったりってしてるじゃん」


「そっか」と柴山が同意したが、横から松山が「でも、そんな機械ってあるのかよ」と現実的な突っ込みを入れてきた。


 そのやり取りを聞いた武井が、教卓の下から、建築現場などで簡易に電源を取るために設置してあるような縦三十センチメートル、横三十センチメートル、厚さ十センチメートルの不透明な防滴ボックスを取り出した。


 扉を開くと、左右に二つの機器が設置されている。左の機器からは電源コードの他に、二本の細いコードがでており、そのコードが右の機器につながっている。右の機器からは、電源ケーブルの他に携帯電話につながったケーブルが出ている。


 それとは別に、お菓子のチョコレートバーのような機器をひとつ武井が教卓の上に置いた。


「先生、それは」


「あぁ、今の君たちの答えだよ。これは、ワナの自動通報システム。人の代わりに見回りを代行してくれる機械さ」


「えっ、そんな機械があるんですか」


「あぁ、それじゃ説明していくね」

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