第3章 入学 第9話
「あぁ、スラッグでの練習を考えると、射撃場で場所を借りるのに四千円くらい。弾が一発百三十円くらいだから、たとえば百発練習しようとすれば合計で一万七千円くらいかかるわけだ。
まぁ、百発もスラッグを撃ったら、肩が痛くなってしまうだろうけれどな。その点、スキートなら弾も一発四十円くらいだし、場所を借りるのではなくて、クレー代として払うことになるから、百枚撃って弾代とクレー代の合計で八千円くらい。
そう考えると、挙銃練習もできる、見越しを学ぶこともできる、しかも安くたくさん撃てるということで、スラッグで練習するよりも優れているっていうことだろうな」
「そうですね。以前、ワイルドライフマネージメント社の山里さんを訪ねた時、山里さんもトラップやスラッグではなくて、スキートで練習って言ってました。
その理由は、まだ僕が銃のライセンスをもっていなかったので、簡単な説明をしてくれたんですが、今の話を聞いてようやく納得できました」
あのときは、足手まといになっていた柴山だったが、今ならその理由が良くわかる。消化不良になるからと言って、詳しく話しをすることはなかったが、あの時に聞くよりも、今聞いた方が確かに受け入れやすく、印象も深くなった。
「へぇ、ワイルドライフマネージメント社の山里さんを柴山君は知っているんだ。山里さんも時々だけれど、その大物グループに顔を出す仲間だよ」
「えっ!本当ですか。知らなかった。僕たち、その山里さんから実践狩猟技術論ていう科目を教わるんですよ」
「そうなのか。健二、お前山里さん知っているよな。学校でも教えるって、どういうことなんだ」
「俺も良く知らない。けど、今回このコースを開校するのに、外部から専門家の講師を招くって学校の先生たちが言ってたから、その関係じゃないかな」
「そうか。あの人に教わるなら間違いないだろう。一緒の猟場でいろいろと俺も教えてもらったけれど、どれもが目から鱗というか、気づかされることが多いからな。あの人は、職人だよ」
「そうなんですか。偶然ですね。今度、あったら松山さんのことを聞いてみます」
「おぉ、聞いてみてくれ。健二は面識もあるからわかるだろう」
「そうだね。でも会ったのは、一回だけだから覚えているかなぁ」
「まぁ、いいさ。いっぱい教えてもらえよ」
「そうだね」
意外と狭い世間である。同級生の父親と同じグループで猟をしたことがあるなんて、こんな偶然ってあるんだろうか。
「山里さんていえば、素っ裸で滝壺に潜ってイノシシ引き上げたことがあったなぁ」
「それ、知ってます。会社を訪ねたとき、若いスタッフの人が内緒で教えてくれました」
松山の父親は、その偶然が嬉しくて仕方がないようで、とりとめもなく猟場での失敗談や上手く仕留めた時の話を、酔っ払いのパターンどおり、繰り返し、繰り返し話ながら、最後には酔いつぶれてしまった。
遅くなったため、柴山と後田は松山の家に泊まることになった。三人は雑魚寝しながら、これからのことに思いを馳せ、空が明るくなる頃まで話し込んだ。
柴山と後田が聞き役で、松山のことをいろいろと聞いた感じだったが、今晩の入学祝いは三人の仲を急速に深めることができた。
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