第2章 迷走 第34話
廊下に出て行った二人の後姿を見送ると、社長は内線電話をとって、秘書に「ワイルドライフマネージメント社の黒澤さんに電話をしてくれ」と指示した。
まもなく秘書から、「お繋ぎしました」との内線があった。
「おぉ、黒澤。忙しいところすまないね。先日電話をもらった学生さん、今日来たよ」
「そう、面倒をかけたね」
「いやいや、確かにこの時期の内定辞退は痛いけれど、追加での求人も予定しているから、どうにかなるだろう。それに、将来的にはな」
「あぁ、わかっている。お前が同級生で助かったよ」
「これも、縁だろう。じゃ、しっかり育ててやってくれよな」
「わかった。迷惑かけた分は、取り戻してやるよ」
「じゃ、また」
「ありがとう」
電話を切った社長は、意味ありげに口元に笑いを浮かべると、机の上の書類に目を落とし、すでに内定辞退者のことなど忘れたかのように仕事を進めていた。
株式会社丸山調査を出ると、後田は山里へ電話を入れて顛末を報告した。
「そう。わかってもらえたんだ。良かったね。その社長さんの好意に応えるためにも、頑張って勉強してください。黒澤部長には、私から報告しておきます。じゃ、また何かあったら連絡してください」
「はい。ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします」
電話を切った、山里は、黒澤部長の方を向くとちょうど黒澤が丸山社長と電話で話しを終えたところで、電話を切ると黒澤は山里に向かって親指を立てた仕草をして見せた。
それを見ると、山里はこちらにも電話がありましたというように手で受話器の形を作って仕草で返した。お互いにそれで、事の顛末を共有しあえた。
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