第2章 迷走 第33話

 社長室で、総務課長と三人での会話がはじまった。


 すでに一度は、総務課長に話した内容だけに、今度は冷静に上手くとりまとめて話すことができたが、最初に話したときほどの熱意というか、どうしてもという気持ちを逆に伝え切れなかったような気もした。


 黙って最後まで話を聞いた社長は、後田が話し終えたのを確認して、口を開いた。


「わかりました。他にやりたいことが見つかったということですね。今、それを我慢させて、入社させたとしても、いずれはその道へと気持ちが動くことでしょう。


 そうなると結局は会社を辞めてということになるでしょう。それは、お互いにとって良くないことでしょうから、あなたの内定の辞退を了承しましょう。


 その結果、あなたの後輩の採用に影響が及ばないことは私がお約束します。


 それに、本当に優秀な人材なら、先輩がこうだったから採用しないっていうのは会社にとってよいことではありませんから。しっかり、勉強してください」


「あっ、ありがとうございます」


「それでは、後のことは課長に任せるので、よろしくお願いします」


「はい、承知しました。では、失礼します」


「失礼しました」

 廊下に出ると、一気に緊張が解けていくのがわかった。


「では、後田君。手続きとしては、内定辞退届をお渡ししますので、もし今日印鑑をお持ちでしたら、それに必要事項を記入して提出してください。印鑑がなければ、後日郵送でもかまいません」


「はい。わかりました。印鑑は持ってきていないので、あとで郵送させてください」


「承知しました」

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