第2章 迷走 第21話

「ひとつひとつ説明するのは実は大変で、それは学校に入ってもらえれば段階を踏んで学べると考えて。


 一番は、失敗から学ぶことかな。例えば、巻き狩りは狩猟には有効だけれど、個体数調整には時として有効ではないって話したのを覚えている」


「はい。狩猟は、逃げる個体を作らないと続かないって」


「そうだね。でも個体数調整なら逃げる個体はできるだけ作りたくないわけだから、巻き狩りの欠点を考えて、それを克服するように考えるところからスタートするわけなんだ」


「はぁ・・・」


「もっと本質的なことで言えば、結局銃でシカを撃つとすれば、何頭獲れるかは、シカとの出会い数とそこで撃った弾が命中するかどうかで決まるわけだよね」


「はい」


「そうなると、出会い数を増やす工夫と命中率を高める工夫をすれば良いわけだ」


「そうですね」


「じゃ、後は坂爪、任せた。ちょっと一件電話連絡する必要があるので、直ぐに戻る」


 これまで話していた山里が、話の続きを坂爪に任せたの一言で丸投げしてしまった。


 急に話を振られて、坂爪も戸惑っているのではと彼の方を見たが、まったく慌てるそぶりもなく、話はじめた。


「はい。じゃ、出会い数を増やす工夫は後回しにして、命中率を高める工夫を先にするね」


「お願いします」


「結局は、獲物に弾を命中させるっていうことだから、射撃練習をするっていうのが一番重要で、まずはスキート射撃でスキルを身につけることが始まり。


 次に、フィールドで犯しがちな失敗について把握することと、それに対応した撃ち方、例えばさっき竹山さんが言っていたように木と木の間に先に銃口を向けておくような撃ち方を覚えておくこと。


 ここまでは、射手の立場でできる工夫。それから、勢子の立場でできる工夫もあって、走っている獲物と歩いている獲物と立ち止まっている獲物だったらどれが当てやすいと思う」


「それは、立ち止まっている獲物ですよね」


「そうだね。見越しなどを考えず、しっかり狙って撃てば命中間違いなしだろうね。後田君のところでは、猟犬を使うのかなぁ」


「はい。少ない時は、一頭ですが、多いと三頭の犬を使います」


「そうなると、獲物は犬に追われて走って逃げてくることが多いのかな」


「そ、そうです・・・、ということは、犬を使わない・・・」


「そうだね。人がゆっくり歩いて追うと、獲物もゆっくりと距離を取りながら逃げてくるから、犬に追われて走っているものよりも命中させやすくなるよね」


「そっか・・・。狩猟では、絶対に犬を使うなぁ」

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