第2章 迷走 第14話

「どうして、スラッグ射撃ではなくて、スキートなんですか」


「おっ、良い質問だねぇ~」

 このフレーズが、好きなのかも知れないと思ったが、顔には出さないように緊張して聞き続けた。


「スイングしながらクレーの前を撃たないと当たらないってわかるかな」


「う~ん・・・」


「弾がクレーに命中するまでに、若干だけれど時間がかかるのはわかるよね」


「はい」


「その間も、クレーは飛んでいるわけだから・・・」


「そっか!クレーそのものを撃ったのでは、弾は後に行っちゃうんだ」


「そうだよ。柴山、良く分かるってるじゃん。俺なんか、教習射撃のときに指導員から引き止まっているって何度も注意されたんだ」


「引き止まるってどういうこと」


「スイングは横方向の動きだろ。引き金を引くって、それと垂直になる方向への動きなんで、撃とうと思って引き鉄を引くと、スイングが止まっちゃうんだって」


「後田君、解説ありがとう。そのとおりだね」


「あっ、そうか。俺、シカを撃つ瞬間に引き止まって、うしろを撃ってたんだ・・・」


「正解!」


「そうか、だからスラッグ射撃じゃなくてスキートなんだ。でもトラップじゃダメなんですか」


「決してダメじゃないけれど、スキートの場合にはトラップとは違って、山での捕獲に適した理由が他にもあるんだけれど、今日は柴山君のことも考えるとちょっと、その話は後回しにしておこうか」


「はい」と後田は、答えたが、なんとなく自分が足手まといになっているような気がして面白くなかった。


「でもね、いくらスキートで五百発練習しても、引き止まりせずにシカを最初から撃つなんて無理なんだよ」


「えっ、じゃあどうやって当てるんですか」


「巻き狩りで射手になったら、シカが通過するであろうコースを予測して、そのコースと自分との間に木が生えているようなら、木と木の隙間が比較的広いところを三か所くらい見つけておくんだよ。


 そして、シカがきたら、まずはしっかり銃床に頬がつくように銃を構えて、銃はスイングせずに、その開けているところに止めておいて、木の陰からシカの首が見えたら思い切りよく引き鉄を引くんだ。


 でも、この時に力むとガク引きをおこしてしまうので気をつける必要があるね。もし、一発目が当たらなかったら、その次の空間に銃を先に向けておいて、同じように撃つようにするんだ。もし一発目が命中していたら、二頭目を狙えば良いんだよ」


 逆転の発想だ!

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