第1章 出会い 第12話
「また、その捕獲の方法についても課題があります。イノシシやシカの捕獲では、巻き狩りと呼ばれる方法が用いられています。
これは、勢子と呼ばれる追い出し役と射手とに分かれて、イノシシやシカを挟み撃ちにする方法です。
狩猟という文化を考えた場合には、この巻き狩りは極めて有効な方法なのですが、どこが有効かというと必ず何頭かは獲り逃がす個体を作るというところに最大の特徴があります。
狩猟は、逃がす個体を作らなければ来週遊べなくなってしまうため、その持続性というところからすれば最高の方法ともいえます。
でも、有害鳥獣捕獲や個体数調整では、これは困った問題となります。怖い思いをしたイノシシやシカは、次から警戒心が高くなって、より捕獲することが難しくなってしまいます。
このように危険な経験を重ねて警戒心が高くなった個体を『スレ個体』と呼びますが、こうなるともう捕まえることは至難の業となってしまいます。
自らが得意とする方法を駆使すれば駆使するほど、自分たちの首を絞めているような状況でしょう」
捕獲のことなど全く知らなかった多くの聴講者も、わずかな時間で捕獲がどんなものかがわかってきている。
合間に入る、スライドや動画がその捕獲の様子をよりイメージしやすくしてくれている。
「捕殺するシーンが入りますので、ご注意ください」と講師は、はじめに伝えたようにアナウンスを入れてくれるが、会場のすべての人が、そのアナウンスを聞くと、身を乗り出すようにスクリーンに集中している。
誰一人として、目をそむけるという様子はない。
「また、十分に訓練されていない猟犬による事件や事故が問題となることもあります。
例えば、ドッグマーカーと呼ばれる犬の現在位置を示すための首輪を使っている狩猟者がいますが、これは電波法に違反している可能性があります。
自治体の担当者からは、仕事をお願いしたら最初の二時間は巻き狩りをやっていたけれど、あとの六時間は犬探しをしていたなんて愚痴を聞いたこともあります。
さらには、散歩途中の女性を襲ったとか、庭先に繋いであった愛犬をかみ殺されたなどというひどい事故も発生しています」
「また逃がすことが狩猟の前提ですから、鉄砲を撃っても百発百中である必要はありません。
要は楽しめれば良いわけで、毎回毎回必ず捕獲して帰らなければならないということではありません。だから、多くの狩猟者は射撃練習もあまりやらないのです」
どのくらいの練習が必要なのかも、柴山には想像できないし、百発百中なんてそもそもできるわけないだろうとも思った。
「そんなわけで、狩猟者から学べることには限界があります。
でも私のところのスタッフは一、二年でベテランの狩猟者以上の働きをすることができます。
その育成プログラムもすでに準備できていますし、その成果もすでにスタッフで実証してあります」
いったいどんなプログラムなんだろう。
狩猟者グループ内で五、六年学んでも身に付かないというのに、一、二年でそれをというか、ベテランの狩猟者以上の働きができるというのだから、余計気になってきた。
「これまでの獣害対策では、船頭が必要だったかもしれませんが、十年後にはその船頭たちが、後から続く捕獲技術を有した人材に追い立てられる時代がやってくると確信しています。
その船頭たちが、我執することなく、捕獲技術を学ぼうとすれば別ですが、遅かれ早かれ技術のない者は周囲から煙たがられるか淘汰されることになるでしょう」
最後まで、攻撃的な話ぶりであったが、柴山には納得のいく話ばかりであった。
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