第110話 おかえり

その後、エンプレスと佐倉中央は並んで向かい合った。

光「今日はありがとうございました。県大会で敗退して、中々メンタル的にも厳しい状況だと思いましたが、想像以上に苦戦しました。それで…なにやら申し上げたいことのあるチームメイトがいるそうですが。」

桃子はつかさの背中を軽く押して前に出した。佐倉中央からも千景が前に立った。

つかさ「この度は勝手にチームを去り、皆さんの信頼を裏切るような行為をしました。それら全ての行為をお詫びいたします。申し訳ありませんでした。もう一度、佐倉中央高校女子サッカー部のチームの一員にして下さい!」

つかさは深々と頭を下げた。エンプレスのメンバーも何人か頭を下げている。後藤は千景を目を合わせて頷いた。千景は後ろを向いて一人一人と目を合わせ、青空を見上げて目を瞑り心の内を決めてまた前を向き、つかさに近づいた。

千景「顔を上げて。」

つかさが顔を上げて千景の顔を見ると、いつしか見たような満面の笑みが広がっていた。

千景「おかえり!!!」

その瞬間、佐倉中央のメンバーは一気につかさに走り寄り、真っ先にたどり着いた愛子はつかさに抱きついた。

愛子「おかえり…!おかえり…!戻ってきてくれてありがとう…!今までごめんね…!」

愛子は涙を流している。

つかさ「ただいま!ううん、こっちこそごめんね…!」

つかさもまた涙を流している。周囲からは次々につかさを出迎える声がしている。

桃子「おぉおぉおぉん!!!づがざ、戻れでよがっだなぁぁぁ!!!」

マヤ「ちょっと…なんであんたが泣くのよっ…私もつられちゃうじゃない…!」

エンプレスのメンバーは他にも飛鳥や神谷、吉良までもが涙を流している。

その光景を横目に光は後藤に近づいた。

光「今日はありがとうございました。」

後藤「ああ、こちらこそ。今日で帰るのか?」

光「いえ、私たちはリーグのオフシーズンなのでまだ戻りません。ただ、桃子、浅野、浅村の海外リーグはもうすぐ始まるので彼女達は明日には飛行機に乗らなければなりません。」

後藤「そうか。…考えていることは一緒だろうが、お願いをしてもいいかな?」

光「残りの夏合宿に帯同してほしいということですね?勿論ですよ。」

後藤「話が早い。エンプレスのチームで誰が残ってくれるか分かったら教えてくれ。」

エンプレスからは光、飛鳥、神谷、マヤ、佐久間、吉良の6人が帯同する事になった。

暫くの談笑の後その日の夜に帰る4人をつかさを除いたエンプレスのメンバーは見送った。

佐久間「気をつけてな。1試合でも多く出場して、活躍してくれることを願う。」

浅野「当たり前だろ!各々目指すのはヤングプレーヤーでなくて得点王とMVPだからな!」

桃子「応援しに来てくれてもいいんだぜ?」

浅村「まあ、ぼちぼち頑張ってくるよ。」

大森「とっとと戻るぞ。早く乗れ。」

光「大森、本当に帯同しないのか?」

大森「私が教えると碌な事がない。ただ、エンプレスから抜けるというつもりはない。佐倉中央のメンバーには皇后杯頑張れと伝えてくれ。またいつか一緒にやろう。残ったメンツも自分たちのクラブで頑張れよ。」

光「分かった。また時間ができたら喫茶店にお邪魔させていただくよ。」

大森「ああ、じゃあな。」

4人の乗った車はすっかり暗くなった道を走り去っていった。

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