第109話 佐倉中央vsエンプレス②

後半開始のホイッスルが鳴るとエンプレスは自陣でビルドアップを開始した。しかし、佐倉中央は最前線の千景を中心に一気にプレスをかけ始めた。エンプレスは勢いに乗らせてはいけないと思っているものの、中々前線にボールを送れない。試合が動いたのはその後すぐ、後半5分だった。飛鳥がボールを受けると萌がすぐに距離を詰め、吉良にバックパスしたところを梨子が更にプレスに行き、佐久間まで戻させた。それを狙っていたかのように千景が猛チャージを掛けるも佐久間は易々と逆サイドの浅村に展開した。しかし、空中戦に競り勝ったのは飛び込んできた美春。浅村より約20cmも身長が低い美春のこのプレーはエンプレスも予想外であり、全員の反応が一瞬遅れた。それによりフリーでボールを受けたつばさが神谷をトラップテクニックで躱すと、光と大森がブロックするよりも速くコントロールして左足を振り抜いた。佐久間は横っ飛びでボールに振れるも、その手を弾いてゴールネットをダイナミックに揺らした。つばさは喜びを爆発させてコートを走り、そこに千景や美春が飛びついた。佐久間は悔しそうに歯を食いしばってボールを前に投げた。

浅村「ごめん、完全に私のミスだ。」

光「いや、警戒はしていたがやはりどこか慢心があった。守備陣は一層気を引き締めよう。」

吉良「兎角、早いうちにリードを奪いたいが、時間はあるから焦らずに立て直そう。」

佐倉中央がエンプレスに追いついた事でエンプレスはリミッターを解除したかのような動きを見せた。つかさではなく、両サイドの桃子や浅野がドリブルで一人で持ち上がりシュートまで行くも佐倉中央の守備陣は死に物狂いで守る。佐倉中央がゴールネットを最後に揺らしてから30分が経過するが、両者ゴールは生まれていない。それを見ていて焦れていたのは佐倉中央のプレーヤーではなかった。

つかさ「桃子さん!浅野さん!焦っちゃダメ!一つずつ繋いでこう!」

千景(…)

その4分後、アディショナルタイムが2分と発表されたにチャンスが訪れた。CKを大森がヘディングでクリアすると、神谷が一気に前線のつかさに向けてロングフィードした。佐倉中央は守備陣が足りていない。そこに漬け込むかのように更にエンプレスの2枚目の4人がフォローに走る。つかさは完璧にボールをトラップすると残っている真希とマッチアップした。

つかさ(時間はかけていられない!)

すると、右足でボールを内→外→内のWエラシコで真希のバランスを崩すとヒールリフトで一気に裏をかいて突破した。真希はつかさを行かせまいとユニフォームを引っ張るが、その手を振り払ってペナルティエリアに進入した。

愛子(さあ来い!どっちの足で蹴ってくる!)

つかさが左足のアウトサイドでボールをコントロールしたのを見て、愛子はすぐに右に飛んでシュートコースを切った。

つかさ(今までの私とは違う…。だからここは!シュートしない!)

愛子の動きを完全に見ていたつかさは右足のヒールで逆方向にパスを送った。

愛子(…きみの方が何枚も上手だったな…。)

雛ともつれ合いながらも先に触ったのは浅野。ゴールマウスがガラ空きの状況で外す訳はなかった。エンプレスが漸く勝利を確信して喜びの声を上げるが、佐倉中央のゴールからボールを拾ってセンターポイントに置いたのは梨子。

梨子「まだ諦めない!アディショナルタイムがあるから!顔上げよう!」

エンプレスが自陣で喜んでるのを見て千景は直ぐに前線にスルーパスを送った。

千景(試合終了の笛が鳴ってないのに喜ぶなんてサッカープレーヤーじゃねえ!)

梨子はボールを受けると誰もいない右サイドを駆け上がった。ゴールまでの距離はどんどん縮まる。しかし、エンプレスは明らかにプレスに来ていない。梨子が頃合いの位置まで上がると千景に向けてグラウンダーのクロスを送った。

だが、そのボールは千景が触れる前につかさがカットして、逆に前線にボールを送った。

萌(ちょっと…!嘘でしょ!?)

仁美「全員で止めてー!」

エンプレスはなんと佐久間とつかさを残して全員攻撃を仕掛けたのだ。流石の佐倉中央も面食らい、そこからたった2本のパス交換で吉良、飛鳥、浅村と愛子の3対1という絶望的な状況を作られ、どうすることもできずに浅村のシュートで4点目を奪われた。試合終了のホイッスルが鳴らされると、その場に残っていた千景はつかさに尋ねた。

千景「まさか、狙ってたのかい?」

つかさ「はい。」

千景「やるねぇ…。」

そう呟いた千景の頬を水滴が伝った。


佐倉中央2-4エンプレス

エンプレス戦の評価点は以下の通り。

愛子:6

真希:6

雛:6

真帆:7

美春:8 1A

萌:6

仁美:7

花:7

梨子:7

つばさ:9 1G 1A

千景:9 1G

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