第108話 佐倉中央vsエンプレス①
決戦前夜、エンプレスのメンバーは佐倉中央と同じホテルに集合し、黄色のユニフォームを着て佐倉中央のメンバーと対峙した。
光「どうも、お久しぶりです。私たちは今回のために特別に作られたチーム、エンプレスと申します。見てお分かりの通り、皆さんのチームメイトの赤井つかさもチームの一員です。明日の試合、私たちは皆さんと全力でぶつかれるのを楽しみにしております。今の日大船橋にも勝っているので勝負の結果は見えていると思いますが、どうかよろしくお願いします。」
後藤(なるほど、選手の闘争心に火をつけたか。面白い事をしてくれるじゃないか。)
つかさはメンバーの一人一人と目を合わせた。確執のあった愛子と千景と合わせている時間は特に長かった。普段ニヤニヤしている千景はそれとは裏腹に真剣な眼差しで見つめていた。
翌日、グラウンドの時計は午前11時を指している。日は高く、絵に描いたように空は青い。
後藤「いいか、幾ら相手が元メンバーだからと手を抜いたり、強さなどに怖気付く必要は全くない。いつもの100%、いや120%で向かっていけ。」
佐倉中央スタメン(攻め方向↑)
千景(C)
梨子 つばさ 花
萌 仁美
真帆 真希 雛 美春
愛子
光「容赦なく行こう。何点取っても構わない。ただ、腐っても優勝メンバーがいる。慢心が無くてもどんどん攻めてくるからな。キャプテンは、今回はつかさに託そう。」
つかさ「私のためにここまでしてくれて本当にありがとうございます。ここで勝って、いい形で戻れる様に頑張ります!」
エンプレススタメン(攻め方向↓)
佐久間
飛鳥 光 大森 吉良
マヤ 神谷
浅村 桃子 浅野
つかさ(C)
先行は佐倉中央。主審の笛が鳴ると千景はボールを一気に真帆までバックし、前線の選手は一気に攻撃モードに入った。
光(ほう、最初からフルスピードで来るか。だったらこっちも迎え撃たせてもらおうか!)
エンプレスも佐倉中央のハイプレスよりも速いパスで隙間を通す。当然個の能力はエンプレスの方が上といったところ。佐倉中央の選手の優っている所は殆どないが、共に練習してきた時間が長い分、チームワークや連携でカバーしている。だが、試合が動いたのは直ぐであった。吉良のロングフィードを浅村が受けると、真帆をスピードで圧倒し一気に佐倉中央の左サイドを壊した。すかさず真希が遅らせようと浅村に寄せに行くが、その時には既にクロスを上げ終わっていた。
愛子(高い!ファーサイドだ!)
そう判断した愛子がすかさず逆サイドの浅野に目を向けるがもう一度ボールに目を向けた時にはつかさが飛び上がってボールを頭で叩きつけてゴールに向かっており、慌てて手を伸ばすもボールはゴールに吸い込まれた。つかさはまだまだ序の口と言わんばかりに喜びを殆ど表さずにチームメイトとタッチを交わしながら自陣に戻っていった。
千景(やってくれるねぇ…。)
佐倉中央も目が覚めたか、エンプレスに負けず劣らずのスピードでパスを回し始めた。前線から寄せてくる浅野、浅村、つかさ、桃子に決して恐れずに勝負を挑んでいる。
桃子(格段にレベル上げてやがるな!)
浅村(楽しい!あの日戦った時みたいに!)
佐倉中央がチャンスを掴んだのは12分。仁美が美春からパスを受けて神谷を背負いながら折り返し、美春がダイレクトで吉良と大森の間を通すキラーパスを送った。
大森(吉良は足がかなり速いが、角度的に先に追いつくのは11番になりそうだな…。触られた後の対応をするか…)
吉良が一直線にボールに向かって走るが、出し抜いていた分千景が先に追いつく。更に千景はエリア内に入ると、スライディングでシュートコースを塞ごうと飛び込んだ大森を切り返しで躱して利き足ではない左足を振り抜く。佐久間は手を伸ばすも届かない。しかし猛スピードで戻ってきた飛鳥がクリアしてCKとなった。
佐久間「助かったぞ兵頭。」
飛鳥「まだピンチは続いてるから頼むわよ!」
佐久間の肩を軽く叩いてマークに付いた。エリア内には千景、真希、萌、花、真帆が構えている。ミドルシュートゾーンには梨子とつばさ、キッカーは仁美。柔らかくカーブした球がファーサイドに向かうが、裏を返せばGKなどには触りやすい球。高身長の佐久間は両手を伸ばしてキャッチすると、センターサークル付近でノーマークのつかさ目掛けて右手で思い切り投げた。つかさがボールを腿でトラップし、後ろから寄せてきた雛をリフティングで浮かせて抜き去る。
つかさ(!?)
次の瞬間には既にボールはつかさの足元ではなく後ろを飛んでいた。ゴールからは大きく外れたものの、なんと愛子がセンターサークル付近にまで飛び出し、落ちてきたボールをダイレクトでシュートしたのだ。
愛子「あんたにはこれ以上好き勝手にプレーなんかやらせないよ。」
二人は目を合わせるとお互いに口角を上げた。
佐倉中央が崩す起点にしたのは右サイドからであった。昨年の県大会を知っての通り、美春は浅野に対してかなり相性がよく浅野の攻撃パターンや守備の穴を突けるため、フィールド上でのボール奪取からの攻撃はそこから始まる事が多い。
浅野(やっべぇ、この子やっぱり苦手…)
浅村(サイド交換しよう。)
アイコンタクトでコミュニケーションする二人を真帆と美春は見逃していなかった。
24分、ボールがマヤからつかさに通ると、つかさはその場にボールをトラップして真希と雛を背負って軽く後ろに転がした。その時、浅野と浅村が同時にボールに向かって同時にダッシュし始めた。
真帆(このタイミングでサイドチェンジするつもりね!考えが甘い!)
浅野(さぁて、面白いプレーしてあげようか)
ボールは若干浅村の方に寄っている。すると、吉良と飛鳥がそれぞれのサイドを駆け上がる。一瞬美春と真帆はそちらに気を取られたが、仁美と萌がそれぞれ追いかけたため気にせずにチェックに行った。しかし、ボールに追いつくのはほぼ同時になりそうだ。
美春(どっちが触るの!?それにドリブル?サイドに展開?シュート?選択肢が多すぎる!)
しかし、展開は全く違った。二人ともボールに殆ど触れなかった。強いて浅野がボールを止めるトラップをしたぐらいで交差しただけ。真帆と美春は二人の動きに釣られて真ん中をガラ空きにしてしまった。DMFの二人もエンプレスの両SBに釣られている。つまり、佐倉中央陣内の中心は守備がいない。それに気がついた頃には桃子がつばさのマークを容易く振り切って右足を振り抜いていた。桃子の代名詞の弾丸シュートはDFの間を抜けてゴール左隅へ一直線。愛子が触る間も無く豪快にゴールネットを揺らし、桃子は近くにいた神谷に飛びついた。
桃子「っしゃぁぁぁ!!!」
神谷「ちょっと!なんで私なのよ!」
完璧に崩されてしまった佐倉中央の守備陣はかなり落ち込んでいる。それを見た千景はメンバーを集めて話した。
千景「いいかい、格上との練習試合で失点してるぐらいでへこたれない。失点したらその度に少しずつ修正していこうよ。ただ、負けを認めるつもりはないから取り返しに行こう!」
佐倉中央は千景の声掛けを受けて気張っていた力を抜いてプレーするようになった。39分、神谷が仁美からボールを奪われるとユニフォームを引っ張って倒したため佐倉中央はファールを得た。ゴールまでの距離はおよそ30m。つばさがボールをセットするが、直接狙うにしては角度も含めてかなり難しいように思える。主審のホイッスルが鳴らされるとつばさはペナルティエリア中央に向けたボールを蹴り込んだ。落下地点には千景と光。
千景(ここ決めなきゃダメっしょ!)
身長やフィジカル、ジャンプ力は光が勝るが先に触ったのは千景。しかし、ボールはうまくミートせずにその場に転がった。
千景(くそっ!こんなんで終われるかよ!)
ボールを倒れ込みながら足を伸ばして蹴り込んだ。ボールはそれほど速くなかったが、上手く守備陣の間をすり抜けて佐久間は一歩も動けないうちにゴールネットが揺れた。千景はすぐさまゴールのボールを抱えて自陣に引き上げた。
千景「もう一点行こう!」
佐倉中央は千景に応じて盛り上がりを見せた。前半はその後、1分のアディショナルタイムを終えてスコアはそのままで終えた。
千景「よっしゃ!いける!いけるって!」
つばさ「もう一点!絶対取りましょう!」
後藤「いい流れが来てる!その調子だ!交代は無しだ。楽しめ!楽しんだもん勝ちだ!」
光「少し怖くなってきたな。つかさはこの状況をどう見る?」
つかさ「勢いに乗り始めてるので後半開始10分ぐらいまでは凌ぎたいですね。私たちがもう一点加えることができれば抑えられると思いますが…。」
大森「まあ、怖いといっても赤井の妹と鈴木ぐらいだろう?その二人は起点や得点源になるが他はそうでもない。ならその二人を完封してしまえばいい。」
佐久間「いや、佐倉中央はそれ以外も舐めない方がいい。全員に警戒をしておけ。」
マヤ「後半、圧倒して勝ちましょ。」
エンプレスはフォーメーションを変更した。
攻め方向↓
佐久間
吉良 光 大森
飛鳥 浅村
マヤ 神谷
浅野 桃子
つかさ
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