第78話 追跡! 神都包囲網 その1

 さあ、毎日がザクサーン忘却派との追いかけっこだ。

 俺達の前に姿を表したのが運の尽き。


 すぐさま情報を手に入れて、活動を始めた現場を潰すのだ。


 本日の仕事先は、運河。


「運搬船を奪った連中が暴走してるだって?」


 すぐさま、現場に駆けつける俺だ。

 並走するのはカイル。


「そうっす! いつもの、操られてるやつみたいっすね!」


「積み荷は?」


「貴金属類っす!」


「なーるほど」


 目の前を、ゆったりと運搬船が過ぎ去っていく。

 跳んで乗り込めないギリギリの距離だな。


 それにしても、運搬船が速度が出ない船で本当に良かった。


「ここは……ブラン!」


『わふん』


 呼べばどこからともなく現れる、俺の相棒白い犬だ。

 彼は俺達に背中を向けると、乗るように促す。


 俺とカイルで、ぎゅうぎゅうに乗り込む。

 牛くらいの大きさがあるから、いけてしまうのだ。


「よーし、頼むぞ、ブラン!」


『わおーん!』


 ぴょーんと、助走なしでブランが跳ねた。

 真っ白な巨体が運河を渡る。


「う、うおわああああ落ちるううう!?」


 カイルがしがみついてくるんだが、凄い力だ……!

 手加減して欲しい!


 そして当たり前のように、ブランは運搬船の上に着地した。


 さて、これは陽動かどうか。

 運搬船を運用しているらしき男達がいるが、彼らは皆、レブナントのような緩慢な動きをしている。


 これはザクサーンの魔法で操られているな?


 経験からすると、操られている人間だけで船を運用することは難しいはずだ。

 船はどんなアクシデントが起こるかも分からないからな。


 だから、洗脳した人間を操っている忘却派が乗り込んでいるはず……!


 その時、ピィーっと指笛の音がした。

 忘却派がいたのだろう。


 その音に合わせて、洗脳された者達が動きを止める。


 ゆっくりと俺達に向かって振り返るさまは、本当にアンデッドみたいだ。

 今回は俺とカイルとブラン。

 どんな状況でも、自力でどうにかできる組み合わせだな。


「カイル、暴れてくれ!」


「よしきた!」


 洗脳された船員が、俺達に掴みかかってくる。

 そこへ真っ先に飛び出していったカイルが、手にした得物を振り回した。


 いつものコルセスカでは人を殺してしまうので、今回の武器は長い棒だ。

 これを、体を軸にして回転させ、前方、左右、後方、死角なしの攻撃を繰り出しいく。


 洗脳された者達は足を払われ、打ち据えられ、引っ掛けられて放り投げられ、次々に戦闘力を奪われていった。

 体が動けなくなる程度のショックを受けると、しばらく戦えなくなるのがこの洗脳魔法の弱点だな。

 そこまで強力なものじゃない。


「ええい、おのれ!! モフライダーズに嗅ぎつけられたか!! どこにでも出てくる連中だ!」


 ここ最近、忘却派の仕事を次々に邪魔しているので、俺の顔は向こうに知れ渡っているようだ。

 忌々しげに俺を睨む男は、船の舳先に立っていた。


「だが、こんなこともあろうかと、あの方は準備されていたのだ! いでよ、キメラ!!」


 男は叫びながら、舳先近くに設置されていた木箱を解放して回る。

 中から現れるのは、オオトカゲの手足を持った双首の蛇と、巨大な翼を生やしたライオンだ。


『わふん』


 任せて、と悠々前進していくブラン。


「任せた!」


『わふ!』


 さて、モンスター大決戦が始まった。

 大物はブランに任せつつ、俺は忘却派の黒幕と戦うとしよう。


「ええい、なんだその犬は!! どうしてキメラと互角に戦える!」


「互角じゃないんだなあこれが」


 俺が言う横で、ブランが双首蛇を咥えて甲板にガンガン叩きつけている。

 頭上から飛びかかってくる空飛ぶライオンは、ぴょんと跳ね上がって前足で叩き落とした。


「なんだと!?」


「うちのブランは特別でね。さあ、降参しろ。どうしてこの船を奪おうとしたのか吐いてもらう……もらわなくても理由は分かるか。忘却派の神都での活動費だろ?」


「な、なぜそれを……」


「本国のアルマース帝国は協調派が主流だって聞いたからね。マイナーな君達は、独自に活動資金を作らなきゃならない。実に大変だ」


「お、おのれ……!! これ以上情報は漏らさぬ!! お前ごとこの船を爆破する!! おお、ザクサーンの神よ、我が魔力に無限の力を与えたまえええええ」


 おっとまずい!!

 これはいわゆる、自爆の魔法だ!

 爆発の範囲は分からないけれど、船が沈んだら貴重品は水の底。

 船員達だって助からない。


 俺は即座に間合いを詰め、忘却派の男に組み付いた。


「わは、わははは!! お前も連れて行くぞ!! 死ね、モフライダーズ!!」


 俺をがっちりと掴もうとする男。

 だが、俺は既に厚手の手袋を身に着け、そこに雷晶石を握りしめている。


 掴まれる寸前に、


「ビリっと行くぞ!」


 雷晶石が弾けた。


「ウグワワーッ!?」


 電撃で痺れ、白目を剥く男。

 開かれた口の中から、見開かれた目玉が、光り輝き始めている。

 体内の魔力が増幅、暴走し、今にも爆発を起こしそうなのだ。


「よーし、吹っ飛べ!」


 俺は舳先から、ラグナスとは逆方向に向かって男を放り投げた。

 さらに、袖口からスリングを滑り落とし、そこに炎晶石を設置。


「そおいっ!!」


 投擲された炎晶石は、水面ギリギリの男の腹にぶつかると、爆発を起こした。


「ウグワーッ!!」


 その爆発が、男をさらに遠ざける。

 そして、とうとう男も爆発した。


 魔力光が辺りに撒き散らされ、爆風と衝撃波が来る。

 だが……距離をとったお陰でそれほどでもないな。


 それよりも気をつけるべきは。


「カイル! 波が来る! 落ちるなよ!」


「うっす!!」


 爆発の余波で起こった波が、船を揺さぶる。

 これが水中で爆発してたら、もっと波が大きかったことだろう。


 いや、なんとか想定内に収められてよかったよかった。


 俺達はスピーディに忘却派の活動を阻止した。

 最近、こんな毎日を送っているのだ。



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