第55話 ラグナスへの旅路 その5

 船旅は平和と言ったけど撤回する。

 朝一で海賊が出た。

 だけど、ブランが船を沈めて、乗り移ってきた海賊をカイル率先して海に叩き込み、俺とクルミで向こうの船の射撃にスリングで応戦。

 アリサとファルクスは、呪歌と神聖魔法で援護。


 ……という感じで、ほんの一時間ほどで撃破できた。

 もう、水夫も乗客も盛り上がること盛り上がること。


 そして海賊退治のお礼なのか、夕食がちょっと豪勢になったりした。


 完全に安全な航路なんてのは存在しないんだなあ。


『ピョイー』


『わふわふ』


 船旅の間に、すっかり仲良しになったロッキーとブラン。

 大きな白い犬の頭に、青い小鳥が止まってトコトコ歩き回っている。


 うーん、癒やされる光景だ。


『にゃ』


『ピョイ』


 あっ、ドレが近づいたからロッキーが飛び立った。


『解せぬにゃ』


「ドレは隙あらばロッキーを捕まえようとするだろう」


『猫の本能にゃ』


「こういう時だけ猫になるんだから」


 俺はドレを抱えあげて、クルミに渡した。


「はいです! ドレー、ロッキーをたべたらだめですよー」


『食べないにゃ。あんなものよりチーズやミルクの方がうまいにゃ。遊ぶだけにゃ』


「ロッキーであそんだらだめですよー」


『何故にゃー』


 ドレがクルミの腕の中でじたばたしている。

 アリサとオーガ船長が引き寄せられてきたな。


 拘束されたドレを、モフモフ攻撃が襲う。

 ドレの『にゃにゃにゃーっ』という悲鳴が聞こえた。


「運河だー!」


 見張り台から声がした。

 とうとう見えてきたらしい。


 そこは、切り出された石とレンガで覆われていた。

 港町になっていて、これを真っ二つに割るように運河が続いている。


「そんなに距離はないけどよ。半日進めばラグナスだ」


 オーガ船長が、どこか寂しげな顔をして告げる。


「船長、うちのモフモフとお別れするのが辛そうですね」


「そりゃあ辛えさ……。オースさんよ、世話になったなあ……。たっぷり一年分のモフモフを補給させてもらったぜ。この船旅は、俺にとって天国みたいなもんだった……」


「帰る時には、また船長の船を使わせてもらいますよ」


「本当か!? いや、帰る時だけじゃなくていい。何かあったら俺の船を使ってくれよ! しばらくはイリアノスにいるからよ! もちろん、ブランちゃん、ドレちゃんは絶対に連れてこいよ……!」


「ええ」


「やった……!!」


 ガッツポーズを決める船長。

 本当に嬉しそうだ。


 運河に入ってしまえば、それこそ平和な旅になる。

 見えるのは、イリアノス王国の町並み。


 運河が幾重にも枝分かれし、小舟が行き交っている。


 この国の主要運搬機関は船なんだな。

 やがて、神都ラグナスが見えてくる。


 アリサが落ち着かなげに、ドレとブランをモフモフしたので、二匹とも逃げて俺のそばにやって来た。


「ああーん」


「アリサ、あんまりモフモフし過ぎると毛が抜ける」


『わふん』


『にゃー』


 二匹も、そうだそうだと言っております。

 そんなわけで、ラグナス到着。


 港に降りる俺達なのだ。


「うおおおおおおおん!! また、また乗ってくれよなあ! ブランちゃん! ドレちゃん!!」


『わふん』


『にゃー』


 船旅が楽しかったと見えて、ブランもドレも、オーガ船長や水夫たちに尻尾を振っている。

 船のメンバー全員が揃っての見送りだなあ。

 すごい光景だ。


 あまりにも片側にみんな寄りすぎて、船が傾いた。

 慌てて反対側に走っていく水夫達。


 これで、船ともお別れだ。

 長いようで短い旅だった。


 またぜひご一緒したいな。


 そして。


「うおおおおおおおん!! いやです! いやですわーっ! わたくし、ブランちゃんとドレちゃんとロッキーちゃんとお別れしたくないですわーっ!!」


 ブランにしがみつくアリサ。


 ここは港にほど近い、大教会の支部。

 出迎えに来た偉い人らしき司祭が困惑している。


「司祭アリサ、わがままを言っては困る……!」


「いやですわーっ!」


「アドポリスに行ったきり帰ってこないと思ったら、こんな事に……!!」


「なんだか済みません」


 俺は謝った。


「ああ、いやいや、謝ることはない。Sランク冒険者とともに旅をしたのだ。彼女も大いなる徳を積んだことだろう。ラグナの神も喜んでおいでだ」


 偉い司祭が頷いた。


「この事は、フランチェスコ枢機卿にも報告しておく。世話になったな、モフライダーズ。おい、司祭アリサをひっぺがすぞ。力自慢の僧兵をいるだけ連れてこい」


 そして、集まった僧兵がみんなでアリサをブランから引き剥がし、暴れる彼女を教会に運んで行ったのだった。

 その後には、アリサ大暴れでノックアウトされた僧兵が五、六人転がっている。


「恐ろしい暴れっぷりだった。才能だけで司祭にしたらいけないな。教育もちゃんとしないと……」


 偉い司祭がぶつぶつ呟いている。

 その後、俺達に向けて笑顔を見せた。


「いや、見苦しいところを見せたな。あ、これは司祭アリサを連れてきてくれた礼だ。お前達、苦労しただろうなあ……」


 しみじみ言いながら、司祭は俺達に、聖水とか輝く金属の玉などを手渡してきた。


「この玉はなんです?」


「アンデッドやモンスターに投げつけると、炸裂して聖なる破壊光線が飛び散る玉だ。聖句を唱えなければ割れないから、投げる時はこの言葉を叫ぶように」


 司祭は俺に囁いた。


「ラグナバンザイ」


「うわあ」


「ラグナの神のご加護がありますように」


 司祭は俺に向かって祈りの仕草をした。


 教会の奥からは「おぎゃああああああいやですわあああ」とか聞こえてくる。

 これはやばい。


「さあ、万が一にもアリサが飛び出してくる前に、俺達もラグナスで仕事を果たそうか」


 俺の言葉に、仲間達は微妙な顔をして頷くのだった。



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