第38話 モフモフまた一匹 その3

『わふん』


 さっき喋ったと思ったら、また犬口調になるブラン。

 なになに?

 こいつを仕留めるのいいが、それよりもテイムしては? だって?


「確かに」


 俺はアリサとカイルを呼んで、クルミを預けた。


「センセエー! 危ないですセンセエー!」


 じたばたするクルミを、むぎゅっとアリサが抱きしめている。


「だめよクルミちゃん! おっふ、尻尾のもふもふがわたくしの顔を叩いて……おっふ」


「アリサさん、美女がしちゃいけない顔してるぜ……! 下がろう! オースさん、あいつをテイムする気だ」


 さすがカイル、察しがいい。


 そして俺の目の前。

 とうとうモンスター大決戦が開始された。

 ふわりと宙に浮く豹のモンスター。


 迎え撃つのは、悠然とそれを見上げるブラン。


「おいおい、飛ばれたらテイムできないよ」


『わふーん』


 任せとけって?

 よし、任せた!


 上空から、豹のモンスターは触手を叩きつけてくる。

 これは、ブランが眉間で受け止めて弾き返す。

 そして軽く跳躍すると、前足で空の一部を叩いた。


 その瞬間、地震のようなものが起こる。

 いや、地面は揺れていない。

 世界そのものが揺らいだような。


 豹のモンスターもこれには驚き、空中でジグザグに動き回る。


『く、空間干渉だと!? 超感覚器すら使わずにやってのけるか!! おのれっ、空中では落下の危険がある!』


 着地するモンスター。

 再び全身を震わせて、振動波のようなものを放った。

 これも、ブランが一声でねじ伏せる。


 強い強いとは思っていたが、想像以上に強いぞ、マーナガルム。

 これ、SSランクモンスターなんて次元ではないんじゃないか。


 ああ、いや、モンスターランクの上限はSSなのだ。

 だから、ここにマーナガルムもエルダードラゴンも、アンデッドの王ノーライフキングも含まれているのだ。

 同じSSランクでも、強さは雲泥の差だと言うな。


 ちなみに……今まで討伐されたSSランクモンスターの数は、俺が知る限りでは五本の指で数えられる程度だ。

 つまり、SSランクモンスターとはそれだけのとんでもない化け物だとも言える。


 おっと、横で解説してる場合じゃなかった。

 モンスター大決戦を行っている横を、俺はそっと回り込んでいく。


 もちろん、豹のモンスターは俺に気付いていることだろう。

 だがブランに意識を集中するので手一杯のはずだ。


 マーナガルムとの対面は、間違ってもよそ見していられるような状況じゃない。


「さて、俺のテイムはどうやら、一定の距離まで近づけばいいみたいだけど……この辺りかな」


 俺がそろりそろりとモンスターに近づくと、クルミの悲鳴が聞こえる。


「ひゃあー! センセエ、危ないですー! センセエ逃げてー!」


「いやいや。危ないのは重々承知だから。あの触手の一撃を食らったら俺は多分ミンチだし。あ、バフかけとこ。敏捷強化……と」


 三割増しで早くなる。

 俺の敏捷強化でも十分な効果を挙げられるが、本職の補助魔法使いバッファーなら、五割増しから最高で十割増しまで行く。

 だが、身体能力を上げすぎると、体がついていかなくなって途中で動けなくなったりするんだよね。


 俺は三割までは耐えられるように鍛えている。

 だからこうして……!

 おっと! 後ろ足でのキックをなんとか回避して……!


「よし、ここだ!」


 俺は素早く、豹のモンスターのお尻にタッチした。


『フギャアッ!? な、なんだこれはーっ!? 己の精神が侵食されていく……! マインドハックする生命体がこの惑星にも……!? な、なんという強力さ……! 抗えぬ……!!』


 モンスターは必死に抵抗しようとしていたが、すぐに大人しくなった。

 そして、しおしおっと小さくなって猫くらいのサイズに収まる。


 もしかして、これが本来の大きさ?


『参った……。己は完全に洗脳されてしまったのにゃん』


「洗脳とは人聞きの悪い。俺のこれは、モフモフテイマーというクラスの能力だよ」


 多分これ、モフモフ限定という強い縛りが入っているせいで、テイムする力がめちゃくちゃ高いんだな。

 マーナガルムに豹……いや、猫のモンスター。

 恐らくはかなり強力なモンスターを、立て続けにテイムできてしまったもんな。


『わふん』


 ブランが満足げに鼻を鳴らした。

 そして、また真っ白でふわふわフカフカなサモエドに戻る。


「うわーん! センセエー!!」


 猛烈な勢いで、クルミが突っ込んできた。

 俺にむぎゅーっとしがみつく。


「クルミ、とってもとっても心配したですよー! センセエにもしものことがあったら!」


「ああ、ごめんごめん。でもさ、俺は自分の限界は分かってるから。だから、ブランの助けがあれば行けると思って今回は動いたんだよ」


「ううー。それでも心配だったですよ」


 涙目のクルミをなでなでする。

 まあ、ここはゼロ族の風習とか考えないでおこう。

 彼女を安心させないとな。


 そうこうしていると、猫のモンスターがひょこっと起き上がった。


『己を手懐けた以上、お前は主であるにゃ。己はクァール。星々を渡る者であるのにゃ。己の船が落下してしまい、この星に不時着したにゃ。主は己の世話をする義務があるにゃ。食事を要求するにゃあ』


「なるほど。よろしくね、クァール」


『クァールは種族名であるにゃ。主は己を呼ぶ際、固有の名称を設定すべきにゃあ』


「なるほど……。じゃあ、ドレ。君の名はドレだ」


『おーけーにゃ』


 クァールのドレは、喉をゴロゴロ鳴らした。

 すると、猛烈な勢いでアリサが走ってくる。


「ねっ、猫ちゃん!! 撫でても?」


「撫でさせてあげてくれる?」


『やれやれ、仕方ないにゃ』


 ドレは、ゴロンと横になった。

 撫でれ、のポーズである。


 アリサはよだれを垂らしそうな顔をして、ドレをなでなでモフモフする。


 猫モードになったドレは、ふわふわモフモフの、金色の猫なのだ。

 ヒゲの代わりに、頭の横から触手が生えているけど。


 こうして、俺のテイムしたモンスターに新たな一匹が加わった。

 また、かなり個性的なモンスターだなあ。



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