第22話 カトブレパス対処法 その2

「おふぁようございまふ」


 クルミがやっと起きてきた。

 かなり長く寝たなあ。

 俺が寝て、起きてもまだ寝てたもんな。


 すっかり日が高い。

 カトブレパス対策は明け方が楽だったんだけど、まあ仕方ないか。


「はい、クルミ、これ」


 俺はクリーム状にしたマンドラゴラを差し出す。


「毒だから飲んじゃだめだよ。朝ごはん食べたら体に塗って」


「なんです?」


「マンドラゴラ。死の呪い避けの軟膏ね」


「しののろいです? ふうん?」


 よく分かってない。

 ナッツと干し肉とビスケットの朝食を終え、ごくごく水を飲む。

 その後、軟膏をしっかり体に塗り込んだ。


 クルミは俺の後ろでもぞもぞやっている。


「ブラン、ちゃんとクルミは軟膏塗ってる?」


 後ろを見たら何か言われそうなので、ブランを通して確認だ。


『わおん』


 ちゃんと塗ってますとも、と返すブラン。


「ふわー、べたべたしますう」


 クルミが不服そうな声を上げた。

 もう準備はいいだろうと振り返ると、彼女の尻尾が軟膏でべっとりとしていた。


 あー、そうだよなあ。

 モフモフも小さくまとめられちゃうよな。

 ちょっと残念だが、カトブレパス対策には仕方ない。


 さあ、仕事だ。

 テントから出ると、村長や村の人々が迎えてくれた。


「おはよう、冒険者の方々。この間の冒険者は戻ってこなかったが、あんたらは大丈夫かのう……」


 心配そうに村長が聞いてくる。


「ああ。カトブレパスにやられると死体を回収できないですからね。大丈夫、対策を立ててきてますから。死の呪いは致命的ですが、対策すれば割と容易に無効化できるんですよ」


「む、無効化……!? 失礼だが、この間の冒険者は6人いたし、鎧と槍を持った戦士や、魔法使いなど強そうな方々ばかりだった。あんたらはどう見ても、軽装のあんたと小さい女の子、それに大きな犬じゃないか。大丈夫なのかい……?」


「見た目で冒険者するわけじゃないですからね。それに、死の呪いの前には鎧や魔法は無意味ですよ。まあ見てて下さい。昼には戻ってきます」


「昼には!?」


 村人達が驚いて声を上げた。


 俺達はブランに乗って出発する。


「んもー。失礼しちゃいます」


 クルミがぷりぷりと怒っている。


「仕方ないよ。俺達の見た目はなかなか頼りないからね」


「クルミはこう見えて立派なレディなんです! 小さい女の子じゃないです!」


「あ、そっち……?」


 ブランが笑っている。

 ──と思ったら、彼がひくひく鼻を動かした。


『わん』


「人間のにおい? ちょっと行ってみて」


『わおん』


 においがするという方向を目指す俺達。

 そこは、沼に近い林の中。


 誰かが仰向けに倒れていた。

 鎧が見える。


「おーい」


 ブランから降りて声をかける。


「生きてるかい」


「う……うう……。助けてくれ」


 うめき声が答えた。

 生きてる生きてる。


 俺は駆け寄ると、相手の姿を確認した。

 鎧兜に、武器。

 これは先にカトブレパス退治に向かった、Bランクパーティの戦士だろう。


 鎧は死の呪いに無力と言ったけど、もしかしてそこそこの効果がある?


 マンドラゴラの軟膏を舐めさせると、彼は動けるようになった。

 マンドラゴラは猛毒だが、死の呪いに侵された人間にとっては特効薬となる。

 その見極めが難しいんだけどね。下手に舐めるとやっぱりただの猛毒になるから。


「助かった……。だが、俺だけが助かった……。みんな殺されてしまった」


 戦士がしょんぼりしている。


「カトブレパスはそういうモンスターだからね。実に危険だ。こんな普通の沼地にホイッと現れたりするもんじゃない。Bランクならカトブレパスと戦った経験はなかったんじゃないかい? 事故みたいなものだよ」


「あんたは……。確か、ショーナウン・ウインドにいた……」


「ああ。今はクビになったけどね。元便利屋さ。今はモフ・ライダーズっていうパーティを率いてる」


 メンバーは俺とクルミとブランの三人だけどね。


「そ、そうなのか。だけどそんな軽装であいつと戦うのか?」


「武装のことだけを装備というなら、俺達は軽装だろうね。だが、準備の周到さを装備というなら、俺達は君よりも遥かに重装備だぜ? 君は運良く生き残った。だから、俺の戦いを見ていくといい。今後カトブレパスと遭遇した時、勝つための知識になるから」


 俺は彼を誘った。

 彼は頷く。


「仲間の死体を回収しなくちゃならん。復活させる金は無いが……せめて埋葬してやりたい」


 ということで、戦士を加えて、俺達は一路沼沢地へ。

 戦士には道すがら、干し肉やナッツなどを齧ってもらう。


 仮死状態だったとは言え、体からエネルギーが枯渇しているだろう。


「クルミもナッツほしいです!」


「はい、どうぞ。仕事の前だから食べ過ぎないでね」


「わあい!」


「本当に大丈夫なのか……?」


 戦士が心配そうに俺とクルミを見るのだった。


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