第62話 ピニョのデート回③
学院のレオ様の部屋へ戻ると、レオ様がベッドに腰掛けてため息をつきましたです。
お顔の色があまり良くありません。やっぱり、無理してピニョに付き合ってくださったんですね。
「レオ様、今日はありがとうございましたです。ピニョはとっても楽しかったです!」
「そっか、なら良かった」
レオ様はニッコリ笑ってくださりますが、やっぱり辛そうです。
「夕食の時間に起こします。少し横になった方がいいですよ」
「ん。そうする」
と言って、レオ様がピニョに手招きするのです。
不思議に思いながらレオ様の前に立ちます。絶対服従のピニョです。
「これはオマケな」
「ふぇっ!?」
そう言ってレオ様がピニョをクルッと180度回転させ、腰に両腕をやってキュッと引き寄せますです。そのままベッドにドサリと横になりましたです。
「いつものお前のマネ」
はう!?ピニョが夜中にこっそり同じ事をしているの、バレていますです!!
「あ、あのあのあの、レオ様!?」
背中から包み込まれる暖かさが心地よいです。両腕でがっちりホールドされて動けないピニョは、嬉しくもありますが恥ずかしいです。
「レオ様ぁ!!」
お返事がありませんです。
スースーと、静かな息遣いが耳に聞こえますです。
まあ、このまま寝かせてあげても、いいのです。どうぞピニョの超回復で、早く元気になってくださいなのです。
心地良すぎて寝てしまい、夕食の時間に間に合わなくて怒られたのは、言うまでも無いのです……
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夕食後、早急に入浴を済ませたらイリーナとリアは、宿舎の談話室にある簡易キッチンにいた。
ピクニックに行って以来、リアは真剣に料理ができるようになりたいと、たまに練習するようになったのだ。
レオが意外にも料理ができると知って焦っているのだろう。
必死なリアは、最近やっと卵が割れるようになった。毎回付き合っているイリーナからすれば、大きな成長といえる。
この間はクッキーに挑戦したが、リアにはまだ早かったと後悔したばかりだった。
「今日は何作るの?お願いだから食べられるものにしてよ?」
「失礼だよ、イリ……今日はタマゴサンドにします!」
「ええ……」
タマゴサンドね、とイリーナはため息を吐いた。ほぼ毎日バリス教官の指導の後に食べているだけに、リアの殺人的なタマゴサンドには耐えられないかもしれない。
「では!!はじめます!!」
リアがフンフン鼻を鳴らしながら卵を割り始める。殻が入らなかった。良かったと胸を撫で下ろすイリーナ。
リアがボウルに6個目の卵を割った時だった。
「イリーナ様、リア様!!」
談話室にピニョが駆け込んできた。
「ピニョちゃん!こっちに来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「イリーナ様、今日はお渡ししたいものがあって来ました!」
何?とピニョを見やると、その後ろにレオがいた。
「おわっ!レオ?もう戻って来てたの?」
イリーナの言葉に、リアも手を止めてパタパタとキッチンから出てきた。
「なんだよ、そんな驚くなって。今日の昼前にもどったんだ」
「お昼前?元気なら授業来なさいよ」
我ながら酷なことを言っているなと思うイリーナだ。
「元気じゃないって。それに今日はピニョ感謝デートを実施した。こっちの方が大事だろ?」
そう言って悪戯っぽく笑うが、ピニョがご機嫌そうなのでイリーナはそれ以上何も言わない事にした。
「ピニョはお二人に仲良くしていただいてとても感謝しています。今日、レオ様とデートして何か贈り物をと……気に入っていただけたら嬉しいのですが」
ピニョがリアに少し大きな包みを渡す。
「開けてもいい?」
「はいです!」
リアが包装紙を丁寧に開けると、なかからフリルのたくさんついたエプロンが出てきた。こんなのを選ぶのは、間違いなくレオだと思うイリーナだが、リアはとても嬉しそうだ。
「ありがと、ピニョちゃん!!」
リアの笑顔にピニョもニコニコしている。なんだか可愛らしい2人である。
「イリーナ様にはこちらを」
手渡されたのは、銀細工の小さなひまわりがついたペンダントだ。
「可愛い。でも、何でペンダント?」
「これにはピニョの超回復の魔力をエンチャントしました。もしイリーナ様が動けなくなった時に使ってくださいです」
イリーナは驚いてペンダントを見つめる。仮にもピニョは本物のドラゴンであり、そんなドラゴンの魔力をエンチャントした貴重なものを受け取っていいのだろうかと思ったのだ。
「ピニョがやるって言ってんだから貰ってやれよ」
戸惑うイリーナに、レオが優しく言う。それから徐に近づいて来ると、イリーナの手からペンダントを奪った。
「ちょ、」
「うるさい」
止める間も逃げる間もなかった。
レオが手にしたペンダントの留め金を外すと、それをイリーナの首にそっと回し、後ろでまた留め直した。
思わぬ急接近に、イリーナの心臓が狂ったようにバクバクいいだす。
普段なら、妙に手慣れたその動作にツッコミを入れる所だが、自分にされるとそんな余裕も何もなかった。
「あ…ありがと」
まともに顔を見る事もできないでいると、レオがクスリと笑う。
「何よ?」
「いや、お前もそういうのつけるとちゃんと女の子なんだなと思って、つい」
ムカッとして、ついグーパンチを思いっきり叩き込む。
「うおっフッ!?」
「あたしはもともと女の子ですっ!!」
「そういう、所が、女っぽく、ない……」
お腹を抱えて蹲るレオに、だけど少し嬉しい気分にもなるわけで。
自分もちゃんと、女の子としてみてもらえてるのかなと、一応納得はしておく。
「リア様は、今日は何を作っているんです?」
苦笑いのピニョが、キッチンの様子を伺いながら言った。
「今日はタマゴサンドにするの。ちょうど夜食にどうかなって思ってたんだけど…ピニョちゃんもどう?」
「えっと…」
ふいっとレオを見やるピニョ。その顔は完全に警戒している。
「俺が手伝う」
「え、いいの?」
「もちろんだ。リアを危険な目には合わせないって言っただろ」
立ち直ったレオが、ごく自然にキッチンに立つ。リアと並ぶ姿はまさに美男美女で、とてもお似合いで少し悔しい。
「せっかくだから、新しいエプロンにするね」
「是非そうしてくれ」
などと楽しそうな2人を見ながら、イリーナはクスリと微笑んだ。
「ちゃんと食べられるものにしてよね!」
「当たり前だろ!お前は邪魔するなよ!!」
「うるさいわね!邪魔ってなによ!?」
などとギャアギャア言い合う。
良かった。
いつもの日々に戻れそうだ、とイリーナは久しぶりに心から笑うことができた。
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