第61話 ピニョのデート回②



 念願の!


 ピニョの念願のデート回です!!


 みなさま、いつもレオ様はクズだとかなんだとか言われていますが、女の子とのデートでは本来のポテンシャルを発揮するのです。


 ピニョとのデートを通して、レオ様のカッコいいところをお見せしたいのです!!


「ピニョ、どうした?」

「なんでもないです!いきましょうレオ様!」


 お部屋のドアを開けてエスコートしてくださいましたです。


 宿舎の廊下を並んで歩きながら、レオ様は真剣な顔でピニョに聞いてくださいますです。


「どっか行きたいところとかある?」

「そうですね…ピニョは、美味しいものが食べたいです」

「美味しいもの?んー」


 ピニョの為に真剣に悩むレオ様の横顔はとってもカッコいいですう。


「レオ様がいつも女の子と行くお店はどうですか?」

「え、まあ、いいけど」


 ひとつ頷いて、レオ様はピニョの手を繋いでくださいましたあああ!!ピニョは頑張って、超回復しちゃうのです!!


「じゃあ行くか」

「はいです!!」


 ピニョは今、幸せです。はう。


 学院を出ると、レオ様は自然に魔導車側を歩いてくださいますです。


 ピニョはふと気が付いて、レオ様に言いますです。


「レオ様…今更なんですが、外出届をだしていないのです」


 するとレオ様は、ニッと笑って、


「んなの俺が後からバリスになんとでも言うからさ、気にすんなよ。それかまだ帰ってないことにすりゃいいんだ。学院のルールより、ピニョの方が大切だろ」


 学院のルールはとっても大切ですよ、レオ様……


 でもでも、ピニョを優先してくださって嬉しいです……


「ピニョは俺がいない間何してたんだ?」


 歩きながら、レオ様に聞かれたので、ピニョはこの二週間を思い浮かべますです。


 レオ様がいない学院の宿舎は、ピニョにとってとても退屈で、部屋はいつもより広く感じます。


 でも、ピニョはレオ様のお世話をするのが仕事です。なので、寂しさを追い払う為にも、レオ様がいつ帰ってきてもいいように頑張りましたです。


「お部屋のお掃除と、お洗濯と…たまにイリーナ様とリア様が遊びに来てくださいましたです」

「あいつら暇か」

「いいえ、ピニョが寂しくないようにだと思いますです。とても優しい人間です」


 お二人とも、口には出さないけれどとても心配してくださいますです。


 あと、とってもレオ様を心配しておられたのですが、ピニョの方が何万倍もレオ様を心配していたので黙っておきますです。


「良かったな、ピニョ」

「はいです!」


 レオ様が笑うと、ピニョもニッコリしますです。


 人の住む街は、ピニョにとってはとても騒がしくて、外の森や山、荒野の方が居心地がいいのですが、レオ様となら何処にいても苦痛ではないのです。


 そもそもピニョは、レオ様に拾っていただかなければ産まれませんでした。


 ドラゴンは卵の頃、魔力を糧にして成長するのです。レオ様の魔力は、ドラゴンに引けを取らないほど大きくて暖かかったので、ピニョは産まれることができたのです。


 だからレオ様にはとても感謝していますです。どこへ行こうと、最後までついてくとお日様に誓いましたです。


「ピニョ、着いた」


 思い出に浸っていると、レオ様が立ち止まって言いましたです。


 目の前には、ちょっと高そうなレストランがありましたです。外観はやけに素っ気ないくせに、窓越しに見える店内は、ふかふかの絨毯とみずみずしい植物、よくわからないセンスの絵画や置物が置かれ、お金持ちが見栄を張る為に利用しそうな、そんな高そうなお店です。


「レ、レオ様……ここは、その、」

「なんだよ?」

「お高めなのではないでしょうか?」


 レオ様はきっと、ピニョを喜ばせようとこんなお店を選んでくださいましたです。お気持ちはとても嬉しいのですが、レオ様はこんな下心見え見えのお店を選ぶような男ではないと、ピニョは思っていますです。


「んなの気にすんなよ。つかお前がいつも俺が行く店に行きたいって言ったんだろ?」


 訂正しますです。


 ピニョはレオ様が落としたい女の子と同列に格上げされたと受け取りますです。


 レオ様は慣れたようにそのお店へ入ります。


 ピニョをエスコートするのを忘れません。


「いらっしゃいませ」


 落ち着いた店内はお昼時でそこそこ賑わっていましたです。


 ウェイターさんがシャキッとしていて、ピニョは逆に居心地が悪い気持ちになります。


「こちらのお席へ」


 案内された席は、お店の真ん中の2人がけのテーブルでしたです。レオ様が店の中を歩くと、食事をしていた女性のお客様がレオ様をうっとりした目で見つめます。


 ダメですよ?レオ様は今日はピニョのものですから!!


 いくらレオ様が、目が合う女性全員にニッコリしていても、騙されてはいけませんよ?レオ様のニッコリほど安いものはありませんです。八方美人なのです。


「ピニョは何が好きだっけ?」

「はい?」


 色目を使う女性客を睨み付けていて、レオ様のお話を聞いていませんでした。ピニョとしたことが、反省です。


「ピニョは肉派?魚派?」

「レオ様のオススメがいいです」

「んー、じゃあ適当に」


 レオ様が自然な動作でウェイターさんを呼んで、ピニョの為に注文してくださいますです。


 妙に慣れているので、やはりここがレオ様の行きつけというのは本当のようです。


「なんかお前と2人きりって久しぶりだよな」


 お料理を待つ間、レオ様がポツリと言いましたです。


「そうですね。協会の任務以来でしょうか」

「いつも任務ばっかだったしさ、たまにこういうのもいいかもな」


 はううっ!!いいですか、みなさん!!


 ニッコリ笑っていますが、レオ様のこれは多分常套句です!!ピニョはそれでも嬉しいのですが!!


 きっと「任務」のところには、別の場所が入るのです。お相手の女性に合わせて、臨機応変に変更されるのです。そんな頭の回転の良さが魔術にも生かされていると思うと、ピニョはもう何も言えないのです。


 お料理はとても上品なお味で、たしかに美味しかったです。


 レオ様はあまり食欲がないのか、少し残しておられました。病み上がりなので仕方ないです。


 ピニョは少し罪悪感を感じましたです。


「さて、昼食も済んだし、次どうする?」

「ピニョはレオ様とならどこでもいいのですが……あ、少し見たいものがありましたです」

「なんだ?」

「イリーナ様とリア様に、何かお礼をお渡ししたいのです。レオ様がいない間、沢山遊んでくだしいましたし、お二人ともレオ様のお見舞いもしてくださいました」


 そう言うと、レオ様はちょっとムスッとした顔をしました。


「イリーナのあれはお見舞いとは言わない。寝たきりの俺の前で、毎日タマゴサンドを食って帰るとか、嫌がらせもいいところだぜ」


 そんな事を言いながら、少し笑っておられるのだから、レオ様はイリーナ様をとても気に入っておられるのがわかりますです。


 悔しいけれど、いつもそばにいるのはピニョの方なので負けたとは思わないのです。


「レオ様、そろそろ出ましょう」

「ああ」


 そろそろ周りの女性客の視線が辛いです。


 お会計はレオ様がしてくださいましたです。当然のように、いつのまにかお支払いが済んでいましたです。さすがです。


 レストランを出て、また手を繋いで街を歩きます。


 向かったのはフェリルで一番賑やかなショッピング街です。


 ここでは日用品から衣類、書籍、家具、食材など様々な物が売っていますです。人がうじゃうじゃしていますが、誰よりもレオ様が一番目立ってしまいますです。


 レオ様の黄金よりもキラキラした金色の髪を、ピニョは何処にいてもすぐに見つけられますです。


「あのお店を見てもいいですか?」


 女の子達が集まる人気の雑貨店を指差して言うと、レオ様は嫌な顔もせずに着いてきてくださいますです。


 レオ様は基本的に面倒くさがりなのですが、今日はデートなのでちゃんとしています。いつもそうならいいのですが……


「なににしましょう」


 店内には、沢山の可愛らしい小物が並んでいます。イリーナ様もリア様も、とても可愛らしい女性で、ドラゴンのピニョからしても魅力的に写ります。


 いつもレオ様の周りをうろついている現金な女性の皆様とは違いますです。とても健全です。


 そんなお二人に、ピニョは心を込めて贈り物を選びますです。


「リア様は最近、宿舎の簡易キッチンでお菓子作りを頑張っておられるので、新しいエプロンにしますです」

「リアが?お菓子?」


 ピニョの言葉にレオ様が反応しますです。


「はいです。レオ様にと、クッキーというドラゴンに燃やされたみたいな物質を作っておられました」

「……んで、それどうなった?」

「もちろんピニョが全力で止めましたです。あんなものを食べたら、レオ様が本当に死んでしまいますです」

「……」


 レオ様が無言でピニョの頭をポンポンして労ってくださいましたです。


「まあ、エプロンはアリだな、うん。菓子作りに役立つかと言われれば、なんとも言えんが」


 リア様のエプロンを無事に選び(レオ様の希望で、フリルがたくさんの可愛らしいものになりましたです)、続いてイリーナ様への贈り物を選ぼうと店内を移動中……レオ様が若い女性に捕まってしまいました。


「す、すみませーんっ」

「ん?」


 二人組の女性客は明らかにレオ様狙いの女豹の顔をしていますです。


「妹さんですか?とっても可愛いですね!」

「仲良さそうで羨ましいなって思って見てたんですよぉ」


 ピニョは憤りを感じましたです。


 確かにピニョは、まだ幼いドラゴンなので子どもの姿にしかなれません。でも、兄妹と思われるのは心外です!!


 それに、ピニョをだしにしていることは明白です!!そうやってちょっと話しかけた体で、狙いはレオ様だとわかっているのです!!


「ピニョは俺の妹じゃないんだ」

「え?そうなんですか?」

「俺の大切な人だから、デートの邪魔しないで」


 レオ様がハッキリとそう言って、申し訳なさそうな顔をしましたです。


「そ、そうですか…」

「なんかすみません」


 女性たちはそそくさと去っていきました。小さな声で、「ロリコン」と言っているのが聞こえます。ピニョはとても嬉しい反面、イライラもしましたです。


「レオ様……すみません」


 ピニョの為にレオ様が悪く言われるのは耐えられませんです……


「ピニョは悪くないし、今日は俺たちのデートだろ?」

「はいです」

「なら気にするな。それに、俺はブスに興味ない。話しかける前にもう一度鏡で自分の顔面をしっかり見て来いって、なあ?」


 思考停止中。


 再起動しましたです。


 そうでした、レオ様はそういう人でした。


「レ、レオ様、声が大きいです……」

「は?ブスにブスって言って何が悪いんだ?」

「と、とにかくお店を出ましょう!!」


 周りの女性客の目が辛いです。


 リア様のエプロンのお会計を済ませてお店を逃げるように出ます。


 続いて入ったお店は、レオ様の好きそうな古書が並んでいました。


 みなさま、お待たせしましたです。


 レオ様はクズですが、魔術に関してだけはとても真面目で勉強熱心なのです。


 気になる本を手に取って、熱心に目を通している姿は本当にカッコいいのです!!


 ふとした時の真剣な眼差しや、普段のチャラチャラした態度とは真逆の表情がギャップ萌えというやつなのです。


「悪い、ちょっと夢中になってしまった」


 しばらくしてレオ様は本を元に戻すと、照れたように笑って言いましたです。


「はうっ、いいのですよ!!」


 ピニョは幸せです……


「えっと、イリーナの贈り物を選ぶんだよな」

「はいです」


 またも歩き出したピニョたちは、適当なお店を探しますです。


 イリーナ様は活発な女性なので、何か実用的な物の方が喜んでくれる気がします。


「あいつなら…食いもんの方がいいんじゃね?いっつもタマゴサンド食ってたし」

「レオ様、イリーナ様にも何か女性らしいものを選んであげてくださいです」

「んなこと言ってもさぁ。イリーナだぜ?」


 どういう意味ですか。


「むむ、なかなか決められないです」

「適当でいいだろ。花とか」


 レオ様が女性に適当に花を送っている事がわかりましたです。


「レオ様は真剣に人へ贈り物をしたことはあるのですか?」


 気になったので聞いてみました。


 協会に入る前のレオ様についてある程度は聞かされています。大切な人がいた事は知っていますが、あまりその方の事は話されないのです。


「そうだなぁ……自分でエンチャントした物をあげた事はある。あれはわりと真剣だった」


 なんと。大切な人のために自分でエンチャントするなんて、レオ様も結構ロマンチックな所があるのですね。


「ピニョはいい事を思い付きましたです」

「ん?」

「イリーナ様には、ピニョが魔力をエンチャントしたものを差し上げます。イリーナ様はこれからたくさん危ない目にあうかもしれません。なので、ピニョが少しでもお助けしたいです」


 ドラゴンであるピニョの超回復の力を、ほんの少しお分けしてあげたいのです。


 それが、イリーナ様への良い贈り物だと思いますです。


「いいんじゃないか。あいつ、おっちょこちょいですぐ怪我しそうだもんな」

「それはレオ様もです」

「俺はおっちょこちょいで怪我をしているわけじゃない!!」


 そうと決まれば、何か身に付けるものを選んで、そこにピニョの魔力をエンチャントしなければなりません。


 ひょこっと入ったお店に、可愛らしいペンダントがありましたです。銀細工の小さなひまわりがちょこんとぶらさがっているそのペンダントは、いつも明るいイリーナ様にぴったりです。


「これにしますです」


 無事にお二人への贈り物を買うことが出来ましたです。


「レオ様、決まりましたので、そろそろ帰りましょう」

「ああ、ちょうどいい時間だしな」

「はいです」


 ピニョはとっても満足して、帰り道もルンルンです。

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