第113話 文化祭

「ねえ、要君、一生に一度のお願い!」


先輩がマジな顔をして尋ねたので、

僕は何事だろうと思った。


「何ですかぁ~?

そんな改まって……

一生に一度のお願い何て言わなくっても、

先輩が僕のお手伝いが必要だったら、

何時でも助けますよ!」


僕は何時も先輩にピンチを助けられている。

先輩が助けが必要な時は、

僕は何時でも先輩の役に立とうと思っていた。


「ほんとに?

男に二言は無い?」


先輩はしつこくそう聞いてきた。

そこで僕は、何だか怪しいと気付くべきだった。


「男に二言はありません。

僕にドーンと任せて下さい!」


僕は胸まで叩いて宣言をしてしまった。


「じゃあね、要君にやって欲しい事は……」


ゴニョゴニョゴニョ

先輩は僕にやってもらいたい事を耳打ちした。


「え~~~~~!!!!!

本当にそれ、するんですか?

僕にそれ、やれっていうんですか?」


先輩は鼻でフフンと笑って、


「男に二言は無いんでしょう?」


と言った。

僕は大後悔だった。

でも約束してしまったものは仕方ない。


「絶対、これっきりですよ?

二度目は無いと思って下さい!」


僕が先輩をキッとにらんで言うと、


「オッケ~」


と、それはもう、楽しそうに返事を返してくれた。


「じゃあ、文化祭の午後の部になったら、

僕のクラスに来てね。

絶対このことは誰にも言わないでね。

青木君や奥野さんにも内緒だよ!」


そう念を押されて、僕は、ハイハイと軽く返事をして

自分のクラスへと帰って行った。


気分はちょっと憂鬱だったけど、

最近また矢野先輩と接触で来るようになったので、

どうしても、先輩のお願いを聞いてあげたかった。

どうにかやって気分を高揚させようと思ったけど、

でもこれは…… そう思うと、やっぱり気分は憂鬱になった。


午後が来なければいいのに!


そう思いながらも、僕達のクラスの映画館は人で一杯になった。

映画に来てくれた人には、紙コップに入ったポップコーンや、

ジュースなんかもサービスした。


上映したのは、午前の部は去年話題になったアニメと、

午後の部はお父さん主演のスパイ映画だった。


僕達のクラスは、前売り券が完売したので、

当日券を扱う必要はなく、

数人がポップコーンとジュースの準備に追われただけで、

映画が始まってしまえば、割と暇だった。


僕は映画が始まって何もすることが無いと確認してから、

青木君と、奥野さんと一緒に佐々木先輩のクラスに

お邪魔しに行った。

でも、生憎と行列が出来ていて、

中に入ることは出来なかった。

そんな時、中から、


「要く~ん」


と僕を呼ぶ声がした。


この声は……


と思って中をのぞくと、

やっぱり変装したお父さんとお母さんがちゃっかりと

先輩のクラスのカフェに座っていて、

その隣には矢野先輩もいた。


「ほら、おいで、おいで、

青木君と、奥野さんも一緒にど~ぞ」


そう言って僕達を通してくれた。


青木君と奥野さんはまだ僕の両親の正体を知らない。

何時かは話してあげたいけど、

今はその頃合いを見計らっているところだ。


「お邪魔しま~す。

お久しぶりです!

お父さん、今日もいかしてますね!

やっぱりハンサム臭プンプンですよ!

矢野先輩もこんにちは~」


と奥野さんが挨拶をした。


「ちわっす。

お母さん、今日も奇麗ですね!」


とは、青木君。


僕はそんな二人の事や矢野先輩は差し置いて、

まず最初にキョロキョロ教室内を見回して、

佐々木先輩がどこに居るのか探した。


その度にお父さんが僕の前に

自分の顔を持ってきて遮り邪魔をした。


「お父さん!

何してるの! 邪魔!」


「え~ 単に要君の顔が見たかっただけでしょう!

お父さんにご挨拶はないの~?」


そう言うお父さんの傍からお母さんが、


「佐々木君だったらほら、あそこだよ、

自分の右肩越しに少し振り向いてごらん」


そう耳打ちして先輩の方を指差してくれた。


先輩は丁度僕の右後ろになるところに居て、

僕は少し首を回して、肩越しに後ろを覗いた。


そこには、赤いシャツに白いタイ、

その上に黒のジャケットを着た先輩が

接客をしながら僕に、『見るなよ』とでもいうよな

感じで目配せをしていた。


ホスト姿の先輩はカッコイイ……

身振りも立ち姿も凄く様になっている。


でも…… 


アクセサリーが全っ然、似合わない……


僕は少し安心した。

思ったよりはイケてないかもしれない……


と思ったのも束の間で、


「私ね、佐々木君が使った後の

アクセもらうことになってるんだ!」


「え~ 旨くやったじゃん、

一体どう言いくるめたの?」


「あれね、私が用意してあげたのよ!

佐々木君、何のアクセも持ってないってだったから、

お兄ちゃんの貸してあげるから、

使った後は返してねって言ったら、

分かったって!

本当は自分で買った新品ものよ!」


「いや~

確信犯だね~

女王様に目を付けられるよ~」


「怖くないよ、あんな自分よがりな女!」


といえば、別の所からは、


「あのジャケットとシャツ、

私が縫ったんだよ。

やっぱり佐々木君にぴったりの色だったよね。

ほんと、すっごい似合ってる!」


「あんた、その特権取るの、頑張ってたもんね~

ズルやってたし!」


「まあね、ちょっとクジに仕掛けしちゃった!

文化祭終ったら、あの衣装、もらうことになってるんだ!」


とか、


「私さ~

佐々木君に後夜祭のパートナー申し込んだんだけど、

断られちゃった~

弥生や良菜や杏なんかも断られたって言ってたよ。

一体どこのどいつがパートナーになるんだろう?

やっぱ優香女王様かな?」


と言った様な会話が聞こえてきた。


「ハハハ、モテる彼氏を持つのもつらいね」


そう奥野さんが僕に耳打ちして来た。


「あっ、やっぱり聞こえましたか?」


僕がそう尋ね返すと、

それを聴き耳を立てて聞いていたお父さんが束さず、


「優香って誰?」


と聞いた瞬間、皆がギョッとする中、

矢野先輩が、


「裕也の婚約者ですよ!」


と素直に答えので、僕達は

え~? 言っちゃうの?

とでもいうように、びっくりした。


そしてそっとお父さんの方を横目で見ると、

案の定、ワナワナとして佐々木先輩を睨んでいた。

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