第69話 僕の思い

矢野先輩の手に引かれ、

僕達は佐々木先輩達から離れた所へやって来た。


僕は少し、佐々木先輩に対して

後髪ひかれる思いだった。


矢野先輩と去る姿を

佐々木先輩には見てほしくなかった。


きっと今頃どんな思いで

僕と矢野先輩の後ろ姿を見ているんだろう? 


嫉妬深い先輩はきっと今頃

いっぱい、いっぱいかも知れない。


僕と矢野先輩が、

どんな話をしているのか気が気ではないだろう。


でも、僕のそんな思いとは裏腹に、

矢野先輩は僕の方を振り向いて、

僕の肩に頭を乗せて、


「見苦しい所を見せてごめん……」


と泣きそうな声で言った。


そんな矢野先輩の声に

僕の胸は詰まってしまった。


頑張って佐々木先輩との関係を

ふみだそうと決めたのに、

矢野先輩のこういった姿を見てしまうと、

どうしても自分の心が矢野先輩へと

引き戻されてしまう。


思いも、心も自分の物なのに、

どうして心って

簡単にコントロール出来ないのだろう?


「先輩、顔を上げて下さい。

僕は、先輩が僕を庇ってくれて、

とても嬉しかったです。

でも、その為に先輩の大事な幼馴染みの

先輩達と気不味くなったりしないで下さい。

そうなってしまうと、心が痛いです」


僕がそう言うと、

先輩は僕の肩を両手で掴んで、


「要君、僕は要君が

一番大事って言ったでしょう?

君の事守るって約束したでしょう?」


と僕の瞳を見つめながら真剣にそう言った。


僕は頷きながらも、少し戸惑った。


何故矢野先輩はここまでして僕に

気を使ってくれるのだろう?


何故小さい時から

一緒に育ってきた

幼馴染みである先輩達にも

敵対できるのだろう?

僕にそんな価値があるとは思えない。


何故?


何故?


何故?


そう言う思いばかりが

頭の中を堂々巡りしている。


先輩は佐々木先輩の言う様に

僕の事が……


イヤイヤ、それはまず無いだろう。


じゃあ、どうして?


分からない。


分からない。


分からない。


相変わらず僕の考えはまとまらない。


「要君?」


「要君? 大丈夫?

ボーっとしてるよ」


先輩の呼びかけにハッとして

先輩の方を見上げた。


「あつ、すみません、

先輩の親切心を考えてたら

ちょっとグルグルしちゃって……」


「僕の行動は要君に取って重い?

僕は要君の中に入りすぎてる?」


先輩が心配そうに

僕の瞳を覗き込んだ。


「そんな事ありません。

先輩は沢山僕に幸せをくれます。

先輩が僕の為にやってくれることは

本心、とても嬉しいです。

ただ、どうして

そこまでしてくれるんだろうと……」


僕がそう言うと、先輩は真剣に僕を見つめて、


「それは要君が大好きだからだよ」


と言った。


またこの人は勘違いさせるようなことを!

先輩の意図は分かっていたけど、

僕はもう一度聞き返した。


「それって……どういう意味ですか?

先輩が僕を好きって言う意味は……?」




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