第58話 人だかり去る

「はい皆行って、行って~

この人の素性は僕が保証するから大丈夫だよ~

怪しい人じゃ無いからね~」


そう言って矢野先輩が

周りに集まって来ていた人達を追い払ってくれた。


そこには僕とお父さんと

矢野先輩と佐々木先輩と櫛田君が残った。


矢野先輩が、佐々木先輩に抱き着いている

櫛田君をチラッと見て、


「ほら、裕也に抱き着いてるそこの君もね。

行った、行った」


そう言って、矢野先輩が櫛田君を追い払ってくれた。


櫛田君も矢野先輩のポピュラリティは知っているらしく、

櫛田君は悔しそうにしながらも、

矢野先輩には逆らえないでいた。


チラチラと佐々木先輩を見返りながら、

渋々と去って行った。


去り際に、

「君って矢野先輩まで手玉に取ってるの?

浅ましいね」

と僕に耳打ちして去って行った。


僕は悔しくて、悔しくてたまらなかった。


櫛田君にそこまで言われるなんて……

もしかして佐々木先輩を好きな人って

皆そう思ってる?

いや……もしかしたら皆……

考えが悪い方へ、悪い方へと傾いて行く。


去って行く櫛田君の後姿を理不尽に見つめていると、


「それじゃ、僕がちゃんと責任を持つって事で良いよね」


と佐々木先輩に言っている矢野先輩の声が聞こえてきた。


お父さんは僕の気も知らないで、


「矢野君、ありがとう~

もう一時はどうしようかと思ったよ~

人は周りに増えて来るし、

最後には警察呼ぼうとされるし、

本当、まいった、まいった」


なんてあっけらかんとしている。


僕はお父さんの方を睨んで、

「来るなって言ったでしょう!

スッゴク恥ずかしい思いしたじゃない!

もう、僕、皆に何言われるか……」

と怒りたてた。


そこで矢野先輩が僕の肩をポンと叩いて、


「ま~ 来ちゃったものは仕方ないから、

ほら、保護者席へ案内してあげようよ」


と優しく声を掛けてあげると、


「ちょっとまって、

優君にも来るように電話するから!

お弁当持ってきてくれるから、

矢野君も一緒に食べようよ!」


と、緊張感のかけらもない言い方をしたので、

僕は少しカチンときた。


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