第29話 体育祭準備

僕達のゴールデンウイークは、あっという間に終わってしまった。

別に何かを期待した訳では無かったけど、先輩と、どうにかなると言う様な事も、微塵も無かった。

でも、先輩と一緒に二人だけで過ごせた3日間は凄く有意義のあったことだと感じた。

先輩とは沢山の事を話した。

先輩はどちらかというと、僕達Ωの感性に近いかもしれない。

それ故に、恐らく僕達Ωの気持ちを尊重してくれるんだろう。

僕はそんな先輩が凄く好きだと思った。


熊本・阿蘇から帰ってきた後は、日常がバタバタとして過ぎていった。

まずは、体育大会が6月の第一日曜日に開催された。

僕達美術部は、校門に飾る体育祭用のアーチの創作を行った。

クラスでは、体育委員長の青木君が早速張り切ってクラスを仕切っていた。


「では、競技種目に選ばれた皆さん、よっろしく~それと…要!ま~美術部の君が、クラスの応援団幕の率先者となって人数を集めてね☆」そう言って青木君はそそくさと、部活動に走って行った。

僕は「え~困るよ。僕、美術部の制作があるのに~」と言ったが、時、すでに遅し。青木君はもう教室には居なかった。

「赤城君、私手伝えるよ!」そう言って奥野さんが声を掛けてくれた。

彼女に習って、殆どの帰宅部や文科部系の人たちが手伝うと立候補してくれた。

運動部は、インターハイの予選が控えているので、部活動はそのまま続行されていたが、文化部は体育祭までは部活動中止となっていた。

体育祭のチームは、各クラスごとに分かれて競われた。

例えば、1組であると、1年生から3年生までの1組が一つのチームの編成となっていた。

僕は1年3組だったので、チーム3。

チームカラーは青だった。

応団幕はそれぞれのチームカラーをベースに、各クラス毎に作られた。


その他に応援団もチームごとに編成されたが、チームの応援団は応援団部を基に、数人がそれぞれのクラスから駆り出されていた。

それは運動部も含められていたため、運動部の妨げにならない範囲で練習が行われた。


クラスの応団幕を作るのに集まったのはクラスの1/3の10人程。

奥野さんは、「ま~このクラスの美術部が赤城君だけだったってのは災難だったね~それにサルが体育委員って言うのもアレだったね。」と言って慰めてくれた。

「それじゃ、まずは団幕用の布が必要だからその買い出しだね。それと、絵の具が必要だから…筆は僕のを使うとして、絵の具も買わないといけないね。それと…団幕のデザインもしなくちゃだから…そうだね…」と僕が言いだすと、奥野さんが、

「じゃあ、美術道具は多分赤城君が何が必要か分かってると思うから、赤城君が買い物行った方が良いと思うから、私はそれに付き合う!他の人は、とりあえずは明日からって言うことでどう?」と提案したので、皆はそれに同意した。

「じゃあ、僕はちょっと美術部に顔を出して、事の経緯を部長に報告してくる。美術部の制作と被っちゃうから、その旨を報告しておかないと。」と奥野さんに言い残して、僕は美術部へと急いだ。


何時ものように渡り廊下を歩いて木造校舎へ行き、3階へと階段を飛び段しながら上って行った。

廊下から中庭を見下ろすと、早速応援団らしき人達が集まって何かやっていた。

そのまま美術室までまっすぐ歩いて行くと、部室が開いたままになっていたので、もう先輩が来てるのだろうと思い、中へ入って行くと、誰かが隅の窓の所で椅子に腰かけ、窓にもたれて眠っていた。

見たことが無かった人なので、誰だろうと思って近ずいてみた。

僕が来たことにも気付かずに眠っていたその人からは、とてもいい香りがした。

僕はその人に近ずいて、クンクンと香りを嗅いだ。

まだ気付かずに眠っている。

「これ、何の匂いだろう?コロン?」

更に近ずいてマジマジとその人を見て見た。

その人は一向に起きようとしない。

「うわ~なんかカッコイイ人だな~少しお父さんに似てるかも。」と思いながら、更に匂いを嗅いでみた。

「何でこの人の匂い、こんなに気持ちいいんだろう?」そう思いながら更に近ずいた。

クンクンと匂いを嗅いでいるうちに、何だか顔が火照って来た。

「凄いドキドキする。何だろうこれ?」

僕が手を伸ばして顔に触れようとした時、その人は少し顔を歪めて起きようとした。

僕はヤバいと思って部室から走って逃げた。

別に逃げる必要は無かったんだけど、顔を触ろうとした反射か、その場は逃げなければと思い、気が付けば走り出していた。


「あれ?早かったね?部長とは話出来た?」

教室で待っていた奥野さんが聞いてきた。

僕は教室の戸にもたれかかって足がガクガクと震えている。

そして段々と息使いが激しくなった。

「ちょっと、赤城君、大丈夫?」そう言って奥野さんが駆け寄ってくる。

僕は直ぐに分かった。

僕は発情しかけている…

「赤城君、あなたの匂い…」

「ごめん、僕のカバンの内ポケットに薬が入ってるから、それを取って下さい。」

奥野さんは直ぐに薬を見つけて持ってきてくれた。

僕はそれを飲んで、ハアハアしながら、「すみません、矢野先輩を探して連れて来てくれませんか?」と頼んだ。

彼女は相槌を打って、「分かった、一人で大丈夫?」と聞いた。

「はい、直に薬も効いてきます。」

僕がそう言うと、奥野さんは走って矢野先輩を探しに行ってくれた。

意外と早く、5分もすると彼女は先輩を連れて戻って来てくれた。

「渡り廊下でばったり会ってね。直ぐ駆けつけて来る事が出来て良かったよ。」

そう言って先輩は心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

「ごめんなさい先輩。まだ発情期には早いはずなのに…」

「こんなこともあるさ。大丈夫だよ。僕もここへ向かいながら、薬ちゃんと飲んだから。」先輩は優しく言ってくれた。

「赤城君、Ωだったんだね。私がβでよかったね!」そういって奥野さんがびっくりしている。

「うん、ごめん迷惑かけて。」

「何言ってんのよ!友達でしょ!赤城君だって私が同じような状態になったら助けてくれるでしょ?」

「もちろんだよ。」僕は力強くそう返した。

「矢野先輩は赤城君がΩだって知ってたんですね。」

「そうだね。あ、でもこのことは要君が話さない限り、されにも言わないでほしいだ。」

「もちろんです!」

「奥野さん、ごめん。今日は買い物行けないや。明日は薬の副作用しだいだけど、もし僕が学校に来れなかったら、皆とデザインの話し合いをしていてもらえる?」

「分かった。心配しないでゆっくり休んで。」

「ありがとう。」

「じゃ、僕は要君送ってくから。ありがとう。」そう先輩が言うと、奥野さんは

「私も途中まで一緒に帰ろうか?赤城君、私の自転車の後ろに乗っけていけるよ?」と気を使って言ってくれた。

「多分、歩けるから大丈夫。薬も効いてきたし。」

「それじゃ、私お先に。何かあったら、いつでも頼ってね。」そう言って奥野さんは一足先に学校を出た。


「あ、じゃあ僕はちょっとメッセージ送らないといけないから、ちょっと待ってて。」

先輩はそう言ってサクサクとメッセージを送っていた。

そして僕達は帰る準備をして学校を出た。

今回は副作用もそこまでなく、ちょっと立ち眩みはしたけど、歩いて帰ることが出来た。

公園に差し掛かった頃、先輩の携帯にメッセージが入った。

どうやらさっきのメッセージの返事の様だった。

メッセージを読むや否や先輩が僕に質問してきた。

「要君、もしかして…発情が起こる前に美術部部室に行った?」

僕はビクッとして立ち止まって先輩の方を振り向いた。





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