第10話 入学式3

「な、この校長、話たいくつじゃね?」


そう言って、入学式で隣に座っていた

青木君が声を掛けてきた。 


僕は苦笑いしながら、


「そうだね」


と合槌するしかなかった。


「俺の名は、青木猛。

第三中学校から来たんだ。

お前は?」


と、コソコソと話し掛けてくる。


「僕は赤城要。

第一中学校から来たんだ」


と、コソコソと答える。


「な、この学校ってΩが居るらしいぜ」


と言う青木君の言葉に、ドクンと心臓が早鐘を打つ。


「えっ?」


とドキドキしていると、


「俺って第二次性に関して偏見は無いけど、

今までΩって会ったこと無くってさ、

本とに居るのかな? 

俺の知人も含め、

αは何人か居るらしいけどな」


冷や汗が出て来る。

どうしよう? 

別に隠すつもりはないが、

僕がそうだって言うべきか?

そう悩んでいると、


「ま、俺はβだから、

どうでも良いんだけどよ」


と自己解決してくれた。

ひとまずは胸を撫で下ろして、


「これから一年宜しく」


と青木君にささやいた。


「な、ところで質問なんだけどよ、

お前ってハーフ?」


と、遠慮なく聞いてくる。

遠慮が無い人は、

結構ストレートで話し易いから、

僕としてはウェルカムなんだが、

あまりプライベートは知られたくない。


「いえ、僕は純100%日本人です」


と当たり障りの無いよう答える。


「色素薄いんだな。

お前、なんか女の子みたいに可愛いな」


との言葉にガクッとした。


「僕、良くボーイッシュな

女の子に間違えられるんです。

でも男なので!」


と気を取り直して返す。


「ハハハ、ごめん、別に悪気はないんだけど、

親や友達にも前から、話す前には

よく考えてから言葉を発せろって言われててさ。

ほんとに悪気はないから。

一応誉め言葉だから」


との賛辞に、


「一応、ありがとうございます。

とでも言っておきます」


と苦笑いした。


「それにしてもこの校長の話、長いな」


と青木君は退屈そうにしている。


「ほんとだね」


と同意をすると、


「な、もうクラブ活動とか決めた?」


と聞いてきた。


「君はもう決めてるの?」


の返すと、


「もち! 中学校からやってるバレーボールさ」


と親指を立てて教えてくれた。


「へー、バレーボールやってたんですね」


僕はスポーツは苦手なので、

余りスポーツクラブには縁がない。


「この学校って強いんだぞ、知らないのか? 

特にキャプテンの佐々木先輩なんて、

αだし、ルックスも良いし、

生徒会長だし、親が議員だし、

スポーツ紙にもバンバン載ってて、

ファンまで居るらしいからな。

俺の憧れなんだ」


と豪語している。


「そうなんですね、すみません、

僕、スポーツには疎くって」


と頭を掻きながら答えると、


「ま、そんな感じではあるよね、おまえって」


と既にバレバレ。


「あ、でも生徒会長と言えば、今朝受け付けに居た先輩、

生徒会長の幼馴染だって言ってたような……」


と、矢野先輩とのやり取りを思い出して言うと、


「あ~、矢野先輩だよな?」


と、青木君。


「知ってるんですか?」


とびっくりして尋ねると、


「ああ、二人とは同中だったんだ」


との答えに、なるほど!、と思う。


「そうだったんですね」


と答えると、


「矢野先輩も奇麗な人だよな」

に、うん、うん、と頷きながら、


「今日、クラブに誘われたんです」


と言うと、直ぐさまに、


「美術部か?」


と返って来た。


「良く知ってますね」


とびっくりして尋ねると、


「そりゃ、中学の時から色々と

美術面で賞を取ってた人だからね。

確か父親が映画美術製作会社をやってて、

有名な美術監督だったような……?

そして母親が画商だったと思うが……

ま、早く言えば、美術界のサラブレッドだな」


美術監督……

お父さんと面識があるかもしれない……

と思っていたら、校長の話が終わった。


「やっと終わったな。肩凝ったよ」

そう言いながら青木君が大きく伸びをした。


「そうですね、じゃ僕は

両親と一緒に帰るからこれで……」


と言いかけた時、


「あ、ちょっと待てよ。

要の両親にも挨拶させろよ。

家は二人とも仕事で来てないからさ」


と僕の腕を掴んで後を付いてくる。


「あ、ちょっと、困るよ、青木君!」


とオロオロとしていると、


「要く~ん、こっち、こっち」


とお父さんが手をブンブン回している。


それを見た青木君が、目を見開いて、


「お前のおやじ、面白いな。

何時もあんなカッコなのか? 

いや、分かった。

おまえ、あのおやじを

紹介したくなかったんだな。

確かにちょっと恥ずかしいな」


と勘違いをしてくれる。


そして隣に立っていたお母さんを見て、


「あのさ、間違いないと思うんだけど、

お前のおやじの隣に立ってるあの、

モデル張りに奇麗な人って、お前のお袋?」


と聞いてくる。


僕は堪忍して、両親のところまで歩み寄って、


「お父さん、お母さん、こちら、

同じクラスの青木猛君です。

で、青木君、これが僕の父と母です」


と紹介した。


「お~要君、早速友達が出来たか!ワハハ」


とお父さんが嬉しそうに笑ている。


「青木君、これからも要をよろしくお願いします」


とお母さんに言われ、青木君はデレデレとしている。


それを見て僕は、ここにもお母さんの信者が

また一人増えたか、とため息をついた。


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