第42話 モテ期が淫れる


「ちょ、ちょっと待って! いきなりどうしたの!?」


 こんな小学生みたいな女の子2人が、突然スケベしようとか言い出すとは!


 まるで……幼い頃の遊子のようだ。


 あいつも昔から、とにかく下ネタが大好きだった。


「だってお兄さん!」


「あの遊子とかいう淫魔と別れたんでしょ?」


「え、ええ!?」


 別れたというか、そもそも付き合ってないのだが……。


 どうやら、遊子と距離を置いていることが、2人のドッキリ発言のトリガーになったらしい。


「べ、別にあいつとはもともと何でも……」


「そうなんだー!」


「君はそう思っていたんだねー?」


 2人は、互いに視線を交わして以心伝心で通じ合う。


 そして――。


「だったら、なおさらだよね!」


「ねえねえハルキ君! リリとスズと3Pしようよ!」


「だからなんでだー!?」


 遊子だって、そこまで露骨じゃなかったぞ……。


 2人とも、言葉の意味をわかっていないのではないか!?


「理由なんてないよ! 目の前に美味しそうなステーキが落ちていたら、ハルキ君だって食べたくなるでしょ!?」


「そうだよそうだよ! 前から美味しそうな人間だなーって、ずーっと思っていたんだー!」


「あわわわ……」


 も、もしかする2人は、ガチでヤバい心の病気なのかもしれない。


 もしくは性的に超早熟になってしまう、ホルモン分泌量の淫れであるとか。


「で、でも……! 2人ともまだ子供じゃないか……!」


 お、俺も18歳以下だし、実は法的にはOKなのかもしれないけど、でも色々とマズい。


 高校生が小学生に手を出すのは、流石に公序良俗に反する!


「えー? これでもリリ達、お兄さんより年上なんだよー?」


「ええっ!?」


「それにスズ達は、これでもやりまくりのド淫乱なんだよー?」


「えええっ!?」


 こんな幼く見える2人が俺より年上だと!?


 にわかには信じられん……。


 しかも性経験豊富とか、世の中にはどんだけロリな需要があるんだ!


 2人は声を揃えて――。


『なんたって私たち、淫魔だもんねー!』


「ええええー!?」


 この2人まで、そんな『妄想』に取り憑かれているのかー!


 ジムに来る女の人って、みんなこんな感じなのかー!? (※)


「ねえねえ、今どんな気持ち?」


「どんな気持ちー?」


「あわわわ……」


 こんな見た目が幼く見える女の人たちが、実は経験豊富だなんて……、


 童貞の俺としては劣等感に苛まれるやら、逆に興奮するやらで、感情が忙しすぎて休む暇がない感じである……。


「リリもスズも『処女♡』じゃないんだよ?」


「子供みたいな顔で『やりまくり♡』なんだよー?」


「あわわわ……!」


 居ても立っても居られなくなった俺は、残りのスポーツドリンクをググッと飲み干すと、すぐにその場から立ち上がった!


「ご、ごちそうさまでしたー!」


 そして、それだけ言い捨てて逃げ出した!


「ああー! ご馳走はきみだよー!?」


「まてまてー! 逃がすかー!」


「いやああああーー!?」


 だが! 2人はストーカーのように追ってきた!


 お陰で俺は、モモヤのあたりまでほぼ全力でダッシュすることになってしまった。


「ぜえぜえ……! はあはあ……!」


 故に、さらに足を追い込むことになったのである……。



 * * *



 翌日の朝――。


「ああー、ダリィー」


 オーバーワークでガチガチになった足を引きずりつつ登校する。


 そして下駄箱を覗くと……。


「む……またか」


 俺の下駄箱に、またもや『ざまぁ』の手紙らしきものが入っていたのである。


「まったく……誰だよ」


 きっと遊子絡みの私怨なのだろうが、それにしても陰湿すぎる。


 こんな姑息な手段で人を貶めてくるチキン君は、そのまま一生、童貞でいるが良い……。


「……ん?」


 だが、その手紙はやけに丁寧に作られた手紙だった。


 綺麗な便箋にいれられて、ハートの形のシールで閉じられている。


 まるでラブレターだ。


「むむむ……!」


 俺は即座に、その手紙を胸元に隠し、周囲をキョロキョロと伺ってしまう。


 本物のラブレターであるはずもない――なんたって俺は非モテだ――が周囲の誰かに見られていては恥ずかしい。


 それに、大方の予想はつくのだった。


 これはつまり、『ラブレターだと思ったー!? ぷーくすくす、残念でしたー! バーカバーカ!』、みたいな、極めて陰湿で手の混んだ嫌がらせに違いない!


 だから俺は、そのラブレターの形をした『ざまぁレター』を、その中身を見もせずにクシャクシャに丸め、近くのゴミ箱にポイッと捨てたのだった。


 すると――。


「ちょ、ちょっとおおおお!!」


「うひっ!?」


 後ろから突然、女子生徒に呼び止められた!


 あまりに大きな声を出すものだから、思わずその場で飛び跳ねてしまう……。


「ちょっと! ちょっと! バカじゃないの!?」


「な、なんですか……!?」


 その人は、校則ギリギリにまで髪を茶色に染めて、なんならゆるふわなウェーブまでかけてしまっているギャルっぽい女子生徒だった。


 胸も大きくて可愛い女の子である。


 はて、そんな絵に描いたような学園美少女が、俺に一体なんの用なのか。


「中身も見ないで捨てるとかありえないわよ! 何考えているのよ!」


「え……あ、あなたの手紙だったんです?」


 まさか……女子がざまぁレターの主だったのか……?


 しかし、その人は顔を真っ赤にして。


「ち、ちがうわよ! それを書いたのはあの子よ! ほら! 泣いちゃってるじゃない!」


「えっ……!?」


 言われてみてみると、下駄箱の影に隠れるようにして、三編みメガネの女の子が泣いていた。


 地味な感じの女の子だが、それはそれで絵に書いたような可愛らしさのある女の子である。


「ハルキ君は今でも遊子さん一筋なのかもしれないけど、それはいくらなんでもあんまりじゃない!?」


「え、ええと……」


 なんで俺、こんなに怒られているんだ?


 というか……もしかして、あの手紙って……。


「ほ、本物のラブレターだったんですか?」


「どこからどう見てもラブレターでしょうが!」


「ふ、深沢さん! もういいの! もういいから! うえええーん!」


「あっ! みゆき!」


 どうやら、目の前のギャルっぽい女子生徒は深沢という人で、手紙の主はみゆきさんと言うらしい。


 みゆきさんは、顔を真っ赤にしたまま、教室のある2階へと逃げるように駆け上がっていってしまった。


「ちょっとあんた! 覚えてなさいよね!」


「え、ええ……?」


 あまりの急展開に、俺は全くついていけなかった。


 そして呆然としながら教室に入ると、みゆきさんは自分の机で小さくなっており、深沢さんは射殺すような目で俺を見ていた。


 どうやら、2人ともクラスメートだったようだ。


 実は俺、クラスメートの名前を半分も知らなし、なんなら顔とかも良くわからないのだ。


 まあ……陰キャなボッチにはよくあることだ……。





※ あくまでもハルキ君の主観であり、現実とは一切関係ありません……!


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