第37話 反省のしかたが淫れる
「う、うおおおおー!」
俺は遊子の家を飛び出すと、そのままご近所を走り回った。
モモヤの前を駆け抜け、川の方へと向かい、そのまま河川敷の道をひた走った。
そうして動き回っていないと、煩悩が爆発しそうだったのだ。
「鎮まれ……! 鎮まれえええー!」
俺が遊子とエッチしたいかだって?
そんなの……『したいに決まっている』じゃないか!?
俺は理性でこそそれを否定しているが、本能の部分では間違いなくそう望んでいる。
健全な男子なのだから、そんなのは当り前だ!
だがそんなこと、あいつが絶対にさせてくれるはずがないんだ。
もしもさっき、俺が『したい!』って本当に正直に答えたら、あいつはなんて返してきたと思う?
そんなの、ちょっと考えればわかることだ。
『なーんちゃって! 本気にしちゃったのー? ぷーくすくす! これだからドーテーは君は! キモーい!』
みたいなことを平気な顔で言って、俺のハートをぐしゃぐしゃにするに違いない。
今までもそうだったんだから、これからも絶対そうに違いない……!
「だから……鎮まれーい!」
俺の股間よ、あいつに変な期待なんてするな!
あいつは俺なんかでは手も届かないような、有名スポーツ選手とか、今をときめく男性アイドルとか、何とか財閥の御曹司とか……とにかく、そんなハイクラスな男たちとくっついてエッチするんだ!
あの可愛い顔でやりまくるんだ!
あいつのお母さんだってそうだったんだから、間違いないんだぁー!
「う、うわああーん!」
その光景を想像したら、なぜだかどうしようもなく泣けてきた。
俺は泣きながら河川敷を駆け抜けた。
しかし最近は朝にアレが来ないせいか、俺のアレはやたらと元気で、いつまで経っても鎮まってはくれなかった……。
* * *
(遊子視点)
「ああ、なんてことだ……」
ハルキが居なくなった後、私は床に座り込んだまま立ち上がれずにいた。
「エッチしたくないって言われた……」
子供の頃からじっくりねっとり育ててきた贄に、はっきりと拒絶されたのだ。
生まれ持った性的魅力こそが絶対の武器である私たちにとって、性行為を拒絶されることほどショックなことはない。
本当に、今すぐにでも切腹して果てたいくらいの衝撃だ……。
「はああ……」
ため息が止まらない。
頭の中に、走馬灯まで流れ始める。
6歳の時に出会って以来の思い出が、次々と現れては消えていく――。
常に私に意識が向くようにと、いつも露出高めの服を来て、過剰なまでボディタッチをしたりした。
その一方で、精を無駄に発散させないよう、厳重に監視してきた。
万が一にも人間の女に取られないように、エッチなことは良くないことだと教え込んだりもした。
あんたのような陰キャのボッチは、永遠に童貞――私以外には♡――なのだという洗脳まで施した。
ブレーキとアクセルを両方全開にして、ハルキを完全に私のものにするために、ありとあらゆる手を尽くしてきたのだ。
それが……。
「……やりすぎたのかな」
家の中で1人、遠くを見ながら呟く。
知らず知らずのうちに、私はハルキを壊してしまったのかもしれない。
私の色気に対して耐性がついてしまったのか……それとも男としての本能が完全にいじけてしまったのか……もしくはその両方なのか。
ハルキの心の中はわからないけど、うら若き淫魔である私にでさえ劣情をもよおさなくなってしまったということは、もう完全に壊れてしまったのだろう。
どうしたら良いのだろう……。
もはや、取り返しはつかないのだろうか。
「だったら、いっそ……」
寝込みを襲って吸い尽くして、全てを終わらせてしまおうか。
そうして気持ちを切り替えて、別の贄を探す旅に出ようか。
このヒトの世に、男なる生き物は無数にいるのだから……。
「あうう……」
ふと、テーブルの上に目を向けると、ハルキの作ってくれた料理が並んでいた。
どれも、私のことを心配して作ってくれたものだ。
あいつは、男としては壊れてしまったのかもしれない。
でも人間としては至って健全な精神を保っている。
他者を思いやる心を持っているのだ。
私は魔物であるが、人間界から食料を提供してもらっている身でもある。
ただ贄として不適格になったというだけで殺してしまうのは、あまりにも恩知らずかもしれない……。
「あいつとは……距離を置こう」
結局、それが私の結論となった。
私は私で、これからも淫魔らしく男を漁って生きていく。
ハルキはハルキで、これからも人間らしく思いやりを持って生きていけばいい。
「ごめんね……」
男としてのあなたを壊してしまって。
謝って済むことじゃないかもしれないけど。
せめて私の居なくなった世界で、出来る限り平和に生きて……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます