第五話 業火
「ねぇ、早く。支度をしないと夜営業始まっちゃうよ? どうしたの?」
茫然自失の奴隷の廻しにレナが尖った声で言う。
叱咤をされて我に返ったサリオンは唇をきつく引き結び、
催淫用のクリームを腿のつけ根と胸とうなじに擦り込んだ。
交尾相手を求めるのは、三十日に一度訪れる七日前後の発情期。
この帝国の属国にされ、性奴隷として公娼に買われた民族は多種多様だが、
大概の国のΩは番のいないαと性交し、
Ωのフェロモン分泌腺があるうなじをαに噛まれることで両者は番となる。
番を得たΩの分泌腺は変容し、フェロモンも変質する。
番を得たΩはフェロモンを発しなくなる場合もあれば、
番のαに対してのみ発するようになるΩもいる。
とはいえ、Ωとαの関係性に大差はない。
しかし、クルム国のΩは互いに運命の番と認め合ったαに、
うなじを噛まれなければ、フェロモンの変容は起らない。
強制的に噛まれてしまい、不本意なαの番にさせられる恐れはないのだが、
一方的に恋情を抱いても相手の番になれない特性がある。
しかし、公娼のΩは男娼だ。
αやβを性的に興奮させ、惹きつけなければ仕事にならない。
そのため、発情期を強制的に誘発する経口薬を毎日飲んでいる。
その経口薬を用いることなく発情しているせいなのか、
レナは肌に触れられるだけで感じ入る。
腰布の前を膨らませ、「くすぐったいよ」と身をよじる。
アルベルトにも同様に、その身をくねらせ、喘ぐのか。
逞しい首に腕を絡ませ、愛撫をもっとねだるのか。
「クリームは塗り終えたから、貫頭衣を着てくれ」
サリオンは険悪に言い放ち、銀盆を棚に置く。
その棚に用意された化粧道具も机の上の宝石も、
部屋中にぶちまけたい衝動に襲われる。まんまとレナに
全くの無防備を衝かれた感覚が、業火のように身の内に湧き起こる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます