第四十九話


それでもレナはアルベルトを健気に慕っている。

客と男娼ではなくつがいになり、

その想いの丈を訴えて、アルベルトの子を産みたいのだと縋っても、

頑としてアルベルトは首を縦に振ろうとしない。


公娼の内風呂に浸って帰るのは、

同衾どうきんしたように見せかけるためだと、

レナはアルベルトに去られるたびに泣いていた。


たとえ宴席を張ってもらっても、肝心の床入り拒まれてしまったら、

レナが『フラレた』ことになる。

レナに恥をかかせることは本意ではないとアルベルトは言い、

表面上は情交したように装ってくれている。


このことは、アルベルトと共にレナの居室に入って待機する護衛兵にも、

箝口令かんこうれいかれているとも聞いていた。

その気遣いが一層つらくて切ないと、

アルベルトが部屋を出た後に、必ずレナにぼやかれる。

サリオンも、『フラレる』レナのやりきれなさの要因を、

自分が作っているようで、

いたたまれない気持ちになる。


アルベルトがレナを買い占めた日は、今夜こそというレナの期待と、

今夜もという落胆に翻弄されるレナが哀れでならない。

ずっと胸を痛めてきた。


ただ、二人の房事ぼうじの詳細を、知っていたとは言えない立場だ。


レナとは同じ年頃に、同じ娼館に売られた身で、兄弟のように育ってきた。

だからレナが嬉しいことも辛いことも、

つぶさに自分に語るのは自然なことかもしれないが、

客とのねやの話まで側付きに軽々しく愚痴るのは、

最高位の昼三ひるさんとしての品格に欠けると、非難される恐れもある。


「お言葉ですが、陛下は今夜の宴席で、レナ様と睦まじく戯れておいででした。私は お二方が腰を抱き合い、寝室に入って行かれる所まで見ています。陛下が買い占めた男娼を一晩どのように扱おうとも、側付きの私なんぞが口を挟むつもりはございません」


一気呵成に述べたあと、サリオンは一度目をつぶる。

薄暗い廊下の天井を仰ぎ見ながら息を吸い、

吐き出しながら柳眉を逆立て、睨めつけた。


「……とはいえ、今夜はレナ様に情をかけるおつもりで、いらしたのではありませんか?」


今までの二人がどうであれ、今夜こそアルベルトはレナを抱く気でいたはずだ。

サリオンは二人のこれまでの経緯を知っていたと答えるかわりに、

アルベルト自身に矛先を向けてやる。


「あれは……」

 

虚を衝かれたようにアルベルトが言い淀む。

サリオンも、何だか自分が恋人の浮気をとがめているような、

場違いな気分になっていた。

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