第四十八話


「この際だから、言っておく!」

 

アルベルトの鋭い語勢が天井の高い廊下に響き渡り、こだました。


「この先も俺はレナを買う。だが、それはお前がレナの側付きだからだ。宴席で俺やレナの世話を焼く、お前に会いたい。それだけだ!」

「……アルベルト」

「確実にお前に会えるのは、買ったレナをはべらせた饗宴の席しか、俺にはないんだ。……他には、俺は……」

 

弾かれたように振り向いたサリオンを、アルベルトが刺すような目で直視する。

胸を上下に喘がせて、拳を握り締めていた。


「だからレナとは一度も寝ていない。レナの居室に移った後は、寝室にレナを休ませて、俺は居間で読書をしたり、仮眠を取って帰っている。ここに来るのはレナと寝る為じゃないんだからな。レナはお前に黙っていたかもしれないが」

「それは……」


思わずサリオンは口ごもり、瞳を激しく戦慄かせた。

その言葉尻を奪うように、アルベルトが追及の矢を放つ。


「知っていたのか?」

「いえ、……あの、それは」


一晩レナを買い占めるくせに、饗宴の間からレナの居室に移った後は、

一時間足らずで帰ってしまう。

それでも公娼にある内風呂で体を清めて去るからには、

するべきことはしているのだと思っていた。


けれど、アルベルトがレナを買うようになってから、

程なくレナに泣きつかれた。


レナがどんなに誘っても、アルベルトがレナには指一本触れようとしないこと。

ベッドに入ろうとすらしないこと。

『俺が買った時ぐらい、ゆっくり朝まで一人寝をすればいい。そうでなくてもお前達は一年中休みなく、客を取らされているのだから』

の、一点張りで口づけすらも交わさない。

 

来館すればレナを買い占めるアルベルトだが、当然ながら来館しない夜もある。

皇帝としての公務を優先せざるを得ない時は、

アルベルトは律儀にも従者を寄越し、レナにその旨を通達する。


そんな夜は、レナもアルベルト以外の客を取る。


ダビデのように『フル』理由が有り余るほどあるような客でもない限り、

体が空いているのなら、買われてしまう身の上だ。

だからこそ、一人寝ができる時にはゆっくりしろと、

アルベルトはレナをおもんぱかる振りをして、床入りしない理由にしているようだった。



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