第三十九話
「ならばミハエルを見舞いたい。寝込んでいるという部屋まで、すぐに案内しろ」
「とんでもないことでございます! 万が一、ミハエル様の御病気が疫病でしたら、提督にまで感染の恐れが派生します。安易にお連れすることなどできません」
見え透いた仮病を疑われても言い逃れができるよう、
予め用意した返答を芝居気たっぷりに口にして、サリオンは提督を押し留めた。
「……ただ、代わりにと申しましては何ですが。昼三のオリバー様が、提督の御慰めになるのであれば、ぜひにと申し出ておりまして」
いきり立つダビデの肩口に額を寄せ、サリオンは耳元で囁いた。
サリオンに顔を向けたダビデの茶褐色の瞳が、
虚を衝かれたように見開かれた。
鼻先にぶら下げてやった別の餌に、まんまと野良犬が食いついた。
サリオンはダビデの目の色が変わったことで直観した。
オリバーも着替えと化粧を済ませたら、
側付きの下男をこちらに寄越すと比較的機嫌良く言っていた。
それまでの間、ダビデを饗宴の間に連れて行き、
酒など呑ませてやりながら、自分が話し相手になってやる。
そして、オリバーの下男が呼びに来たら、オリバーの居室に案内する。
後はミハエルにフラれたことなどオリバーが、忘れさせてしまうだろう。
こうなれば、今度はオリバー自身の面子がかかっているからだ。
やはり格下のミハエルの方が良かったなどとは、
意地でも言わせないに違いない。
また、これを機にしてオリバーも太客として、
王族の提督を取り込みたいはず。
最高位にまで昇りつめた昼三が、その意気込みで籠絡すれば、
ダビデのような男が最も落としやすい。
サリオンも、かつては昼三として数々の上流階層の男達を、
上客として抱えていた。
娼館でフラれた男につける薬は、
自分をフッた男娼よりも格の高い男娼からの接待が一番効くということも、
自身の経験からわかっていた。
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