第三十三話

テオクウィントス帝国の娼館では、

娼婦や男娼が客と寝ないなどという不条理は存在しない。

そのテオクウィントス帝国での不条理が、

クルム国の高級娼館では、まかり通っていた。


高級娼館が上流階級の男達の娯楽になるのは、

性欲の発散という、本来の目的以上に買った男娼に、

モテるかフラれてしまうかの、スリルを味わうことができるからだ。

 

男を見る目が肥えている高級男娼にちゃんとモテれば、

男としての優越感も倍増する。

万が一フラれても、ごねたりせずに正規の料金を払って帰る。

それが矜持きょうじとされていた。


クルム国の上流階級の男達はそうやって、

高級娼館ならではの遊びを楽しんだ。

テオクウィントス帝国唯一の公娼でも、その慣習を継いでいる。


国家が娯楽施設として設立した公娼なのだから、

公娼に来た客はあらかじめめ、フラれる可能性があることも納得の上で、

くらいの高い男娼達を買っている。


「ミハエル様にフラれた腹いせに暴れてるのか? 二階でダビデ提督は」

 

サリオンは下働きのΩの男児に苦々しく問いかけた。

男児がおずおず頷くと、サリオンは鋭い舌打ちを響かせた。


「……仮にも皇帝の従弟だろうが。みっともない。だからフラれるんだって、気がつけよ」


ミハエルは最高位ではないものの、人一倍気位が高く、勝気でもある。

宴席での客の態度が気に入らなければ、

提督だろうが皇帝だろうが、お構いなしにフルだろう。


芯の通ったミハエルに好感は持っている。

だが、こうなることはミハエルも予測していたはずだった。

激昂した提督のご機嫌取りを強いられるのは、下働きの廻しの自分だ。

それなりに根の張る寝所持ち男娼のミハエルではない。


「どういたしましょう、サリオン様」

 

Ωの男児は涙目になり、怯え切って震えている。


「何とかする」

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