第二十七話


「入ってもいいか?」

 

アルベルトは砕けた口調で部屋の中のレナに言う。

心なしか、つまらなそうな口振りだったが、アルベルトの声はよく通る。

やや低く、耳に心地よく響く弦楽器のようでもある。

そして既に、部屋へと踏み入れかけている。


「はい、もちろんです。ですが、陛下」

 

レナは飛ぶように駆けて来て、アルベルトの正面で立ち止まる。


「お食事はまだ、お済みではなかったはずです。前菜しかお召し上がりになられていらっしゃらないのでは……?」

「特に腹は減っていない。それよりも」


語尾を濁したアルベルトがレナの腰に腕を回し、やや強引に歩き出す。

それがアルベルトからの返答だ。

腰を抱かれたレナは一瞬、ドア近くにいるサリオンを振り向いた。

酒宴も終えないうちからレナの居室に移動したのは初めてだ。

レナも戸惑っているらしい。


「陛下は今夜は主菜以降のお食事は、お取り止めになりました。食欲は、さほどないとの仰せにございます」


サリオンは、アルベルト自身が宴席の取り止めを命じた旨をレナに伝えた。

だから気にせず床入りしろと、目顔で返事をしてやった。

そして直後に目を伏せた。


レナの腰を抱いたまま、振り返りもしないアルベルトの広い背中が遠ざかる。


レナも困惑気味に眉を寄せてはいるものの、

アルベルトから性急に求められた悦びと、少年らしい初々しいような恥じらいを、

美しい顔ににじませる。

その残像が脳裏に焼きつき、ドアノブを回して部屋を出ても、

サリオンは胸苦しさを覚えていた。



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