第二十五話


サリオンは床に落とした燭台を拾い上げた。

火の消えたロウソクに別の燭台のロウソクの火を移して点し、

銀の手燭に突き立てた。


アルベルトは、こちらの反応を見るためだけに、

レナを嬲って喘がせた。

サリオンは、まんまと策にはめめられた自分に腹を立てながら、

卑劣なアルベルトにも憤慨していた。


本気で自分に恋をしているレナを道具に使った非情な男だ。

娼館内では客とはいえ、愛想笑いもしたくない。


「恐れながら、前を失礼致します」


饗宴の間のドアを開け、

アルベルトを先導しながら二階のレナの居室に向かう間もずっと、

サリオンは反感を沈黙に込めていた。

長く続くモザイクタイルの仄暗い廊下を手燭で照らして、ただ歩く。

ロウソクの火が斜めに傾いで揺れていた。


サリオンの後に続くアルベルトも黙っている。

無言だったが、大股でタイルを蹴っているアルベルトの革サンダルの靴音が、

まるで答えをはぐらかしているサリオンを、

責め立てるように荒々しかった。


それなのに、今からレナを抱きに行くのだ。


お前を諦められなくなる。

 

たった今、切なげに訴えておきながら、

金で買ったΩの寝所へ案内させるアルベルトの本心も神経もわからない。

わかりたいとも思わない。


サリオンは握った手燭を背後の男に投げつけて、

喚いて逃げたい衝動を必死に堪えて先導する。

堪えなければ、咎めは自分だけでなく、

自分を下男に使っている主人のレナにも及んでしまうからだった。

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