第二十三話
「足下にお気をつけ下さい」
サリオンは手燭のロウソクで先導し、饗宴の間を出ようとした。
白大理石の床を踏む、サリオンの古びた革のサンダルの足音だけが
微かに響いた。その時だ。
背後から左の肘を鷲掴みにされ、戻される。
「……っ!」
視界がぐるりと一周した。
思いがけない衝撃で、掲げた手燭も落としてしまった。
銀の燭台が甲高い音を反響させ、蝋燭の火は立ち消えた。
「お前はそれでいいのか? サリオン」
と、アルベルトはサリオンの左右の腕を掴み上げ、噛みつくように訴える。
悲愴な目だった。
失望と悲しみと苛立ちが、アルベルトの亜麻色の双眸に
交互に浮かんだ。そして頭を傾けて、無言で口づけようと迫られる。
「……陛下っ」
サリオンは身じろいだ。逃れようと肘を振り、苦痛で顔を歪ませる。
腕に食い込む指の力が憤怒の凄まじさを語っていた。
「俺がレナを孕ませて、レナに子供を産ませれば、満足するのか? ほんとうに。それがお前の幸せなのか? お前が俺に心底望むことなのか?」
「アルベルト」
「それなら、さっきはどうして部屋を出た? あんな顔を俺に見せた? どうして俺に期待をさせる?」
揺さぶられながら、がなりたてられ、何も言葉が紡げない。
顔を背けた次の刹那、その胸の中に抱き込まれた。
背が弓なりにしなるほど掻き抱かれて息を呑み、
うなじに顔をすり寄せた男の息が弾んで熱い。
締めつけるように抱きすくめてくる腕の力にサリオンの、
鼓動が一気に跳ね上がる。
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