第十九話


意を決してサリオンは、目の前のドアをノックした。

売られた喧嘩は買ってやる。

誰があんな男の掌中にはまるものかと顎に力を込めながら、

背筋をピンと伸ばして待つ。

 

すると、すぐに艶めいたアルベルトの低い声で、

「入れ」

とだけ、短い応答が返された。落ち着き払った声だった。


サリオンは胸の鼓動が乱れ打つのを感じつつドアノブを回し、

両扉の片方を引き開けた。

そこで二人がどんな姿でいようとも、

絵画や彫刻を見る目と同じ目でしか見ないと心に決めていた。


テオクウィントス帝国の上流階層の連中は、

奴隷のΩを人間だとは思わない。

若くて美しければ愛玩物。そうでなければ道具と同じだ。使えるだけ使い倒し、

古びたり、壊れたりしたら捨てるだけ。


アルベルトもΩの奴隷を快楽を得る玩具としてしか見ないなら、

自分も彼等を人間だとは思わない。

天井に向けた視線を少しずつ下ろして毅然と前を向く。


と、同時に、サリオンは、

「えっ……?」

と、小さな声を出し、そびやかした両肩をすとんと落として放心した。

虚を突かれたように立ち尽くし、瞬きだけをしていると、

からかうような声がした。


「どうした? 何だ、その顔は。主菜を運んできたんじゃないのか?」

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