第六話


「それなら先に陛下をお迎えして、そのあとダビデ提督と床入りすればいいだけなのに。無理やり僕を買い占めたのは、提督を待たせてる間はサリオンが接待しないといけないからじゃないのかな」

「……えっ?」

「ダビデ提督は強引な人だから。待たされてる間にサリオンに乱暴するかもしれないし。陛下は撲じゃなくて、サリオンを守りたかっただけだよ。きっと」

「レナ」


ぼそぼそ答えて項垂れるレナに、サリオンは語気を強くする。


「いいか? お前は客に惚れさせて競わせる側の人間だ。そのお前が客に振り回されてて、どうするんだ。そんな弱気じゃ商売にならない。しっかりしろ」

「……でも、僕はお金じゃなくて本当に陛下のことが」

「お前にはアルベルトが俺に惚れてるみたいに見えるかもしれないが、あいつは俺に惚れてなんかいやしない。廻しの俺には手が出せないから、出したがっているだけだ。それに、俺に惚れてる振りだけしていれば、こうやって一日中、お前に気を揉ませることだって出来るんだ。わかるだろう? これがアルベルトの手管なんだ。遊ばれてんだよ、俺達は」

「そんなこと……」

 

サリオンは反論しようとするレナを、ねじ伏せるように息巻いた。

故国では、物心ついた頃には自分もレナも男の劣情の捌け口にされていた。

にも関わらず、レナは良くも悪くも純真だ。

世俗の垢には染まらない。

圧倒的な美貌で周囲をかしずかせ、常に優位に立ち続けている。

誰もがレナに声をかけられたがっている。

そのレナが、これほど男に惚れ込んだのは初めてだ。


だからレナは些細なことで動揺する。

期待と落胆の両極を、振り子のように揺れ動く。

そんなレナがもどかしく、思わず口調も荒くなる。


「俺からしたらアルベルトは最高位の昼三ひるさんを本気にさせた、なんて安っぽい自尊心を満足させたいためだけに税金を湯水のように使う、傲慢な皇帝だ。そんな奴の遊び道具に使われて、悔しくないのか? お前は昼三の最高位なんだぞ?」

 

サリオンはレナの足元にかしずいて、華奢な両手を両手でしっかり包み込む。

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